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これを書いている時点では本書は発売前なので、僕はまだ「現物」を見ていない(もちろん、オリジナル版は『見た』ことだけはあるが)。しかしこの快挙を前にして黙っていることはできない。できるかぎり早く一報したく思い、リリース資料を前に原稿を書いているという次第だ。
サム・ハスキンスの最高傑作『カウボーイ・ケイト&アザー・ストーリーズ』の「オリジナル版」が、ペーパーバックで完全復刻されるのである! しかも、英ハスキンス・プレスと共同でこの事業にあたったのが、大杉栄本の連発などでお馴染みの東京の小出版社・土曜社だというのだから、嬉しいじゃないか。06年に米リッゾーリ社から出たエディション(ディレクターズ・カット版)も、「まあまあ」ではあったのだが、しかし、65年発行のオリジナル版にはかなうべくもなかった。そしてあちら(オリジナル)が、ごく普通に2万円以上の古書価格で流通している今日、廉価なペーパーバックで(予価は本体2381円)新たに再発売されることの意義は大きい。
言うまでもないことだが、ある種「全能の人」でもあったサム・ハスキンスにとって、写真集はまさにうってつけの表現媒体だった。写真を撮るだけではなく、なにをチョイスし、どうトリミングし、並べ、どうデザインし、タイポを組むのか、そのすべてを自ら考え、集約することができる総合芸術が彼にとっての写真集だった。であるだけに、世界を熱狂させた「カウボーイ・ケイトの65年ヴァージョン」をいま見ることができるのは、幸福と言うほかない。その一大事業に同胞が加担したことを、日本人は誇りに思うべきだ。きっと、世界中のいろいろなところから、「よくやったぞ!」と誉めてもらえるに違いない。いやあこう見えて、日本人の文化程度って、落ちてなかったんだね。あのころから、と。
サム・ハスキンスがいなければ、ピチカート・ファイヴはなかった、と言えるだろうか? あの時代の東京の「女性美について」の考えかたに、サム・ハスキンスは抜き差しならない甚大なる影響を与えていた。キュビズモ・グラフィコのアルバム『TOUT!』のジャケに、ハスキンス『ファイヴ・ガールズ』収録の一枚が提供されて、大いに話題になったこともあった。日本人が撮る、いわゆる「おしゃれエッチ」な女の子写真の元祖中の元祖は、やはりサム・ハスキンス御大に違いない、とだれもが思っていたはずだ。
まだまだ、言うべきことは山ほどあるのだろう。しかしなによりも僕は、いますぐにでも戦争を始めそうな腐臭が充満したこの島国の片隅で、かつて溜め込んでいた文化的素養と、かつて培っていた技術力(印刷は大日本が担当)が、ここにこうして結実することをまず言祝ぎたい。紙に刷って、束ねるだけの価値があるものを、「本」にできることを喜びたい。人は死ぬが本は残る。ここで作られた「本」は、そのすべてが焚書でもされないかぎりは、世に流通し続ける。いかなる右翼の妄言よりも、おしゃれでかわいい女の子の写真を眺めているほうがいい。本作の発売は2月下旬を予定。そして「もちろん」続刊として、同様の主旨のもと、『ノヴェンバー・ガール』(67年)、前述の『ファイヴ・ガールズ』(62年)もリリースされる。ハスキンス祭りはまだまだ続く。これは集めるしかないでしょう!
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「Cowboy Kate & Other Stories」
写真・タイポグラフィ:サム・ハスキンス
監修:ルドウィグ・ハスキンス
(The Haskins Press / 土曜社)
予価:2,500円[税込]
2014年2月下旬、発売予定