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20世紀と銘打たれてはいるのだが、おもにフォーカスされているのは、戦後の日本にて発行された雑誌だ。なかでも、70年代初頭から80年代いっぱいあたりまでの「特筆すべき雑誌」がとくに集中的に、様々な形で取り上げられ、並べられ、分析されている。「画期的な編集とビジュアルで新たな価値観を生み出した雑誌を、関係者のインタビューと関連資料で振り返る」というのが版元の惹句だ。
たとえばそれは、こんな具合だ。『ワンダーランド』と『宝島』を取り上げたページでは、津野海太郎さんと平野甲賀さんが制作秘話を語っている。その同じページに、創刊当時の大判だったころの同誌の表紙や中面のページの画像も掲載されているのだが、これら全部が、きわめて「雑誌的」な、ポップかつアクティヴなレイアウトの中に併置されている――これが本書の基本的構造だ。つまり、前述の「新たな価値感を生み出した雑誌」を、「そこから学んだ方法論」にてマッピングしなおした、まるで「カタログ形式の雑誌のような」そんな一冊が本書なのである。であるから、ここで認められた「価値」そのものにぴんとこない人にとっては、かなりどうしようもない、謎な本だろう。「ぴんとくる」人にとっては、そう、まさに、「自分にとっては」宝の山である古書店に迷い込んでしまったときのような、恍惚の境地を体験できる、かもしれない。
本書の中で大きく取り上げられている雑誌名を、いくつか挙げてみよう――『ホール・アース・カタログ』『MAD』(ここまでアメリカ)『(自販機本の)JAM』『(パンク・ジンの)狂乱娼館』『ロッキング・オン』『遊』『WET』『アンアン』『ガロ』『COM』『MOB』『ウィークエンド・スーパー』『写真時代』......そのほか、フィーチャーされたその総数は大小取り混ぜ1200点にも上るそうだ。
そもそも僕は、日本語の雑誌の多くの種類を定期的に購読したという経験が、ほとんどない。だから読む人としての僕は、ここに載っているもののほとんどを詳しく知らない。しかしそれでも、仕事をしたことがある雑誌はいくつもある(僕が創刊した雑誌も、ひとつ掲載されている)。僕ごときでそうなのだから、もっとよき読者であったり、もっと幅広く仕事をしてきた人だったら、本書はかけがえのないアーカイヴなのではないか。
おそらくこの日本において、「紙」の雑誌は、ごく一部を除いて、商業ベースでは遠からず消滅するだろう。とはいえインターネットや電子書籍において、「雑誌的」な発想や感性が、とくに必要だとはとても僕には思えない(過渡期的にはそれもいいのだろうが)。だから僕はこう考えている。ちょうど「アナログ・レコードのように」紙の雑誌は、一度は滅亡に瀕するだろう。そして「昨今の米英のレコード・ストア・デイに象徴されるように」かつてとはまったく別種の「価値観を背負った、コレクタブルなモノ」として、小さなマーケットにて回帰現象が巻き起こるだろう。「雑誌の発想や感性」は、「雑誌というメディア」ではなく、少部数のムックや書籍という形態へと結実して、新たな地歩を得ていくのだろう。本書はその先駆けモデルとなる一冊かもしれない。ZINE作りに熱中している若い世代なら、手に取ってみて損はないのではないか。
text: Daisuke Kawasaki (beikoku-ongaku)
「20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち」
赤田祐一・ばるぼら 共著
(誠文堂新光社)
2,500円[税抜]