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アラスカへ行きたい

アラスカへ行きたい

「最果ての地」であるアラスカを、いろいろな角度から紹介してくれるガイド本。

14 9/30 UPDATE

印象深い写真集『PIPELINE ICELAND / ALASKA』などで辣腕をふるう写真家・石塚元太良さん、当欄でも取り上げた『ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと』を手掛けた編集者・井出幸亮さん、このふたりが焦がれた「最果ての地」であるアラスカを、いろいろな角度から紹介してくれるガイド本が本書だ。

ガイド本の評価ポイントに「そこに行ってみたくなる」「行ってみたときに『よく使えた』」といった点があるはずだ。しかし本書はまず、部屋のなかで開いてみるだけで、楽しむことができる。いろいろなトピックから「アラスカの多様なる魅力」を開陳していってくれるその様子が楽しいのだ。写真も図版も豊富、ほとんどのページがフルカラーで、シーカヤックから先住民文化(これは読みごたえあり)、グルメから野生動物、釣りからトレイル・ウォーク、犬ぞり、トーテム・ポールの分類、アラスカ・ファッションまで、ポップに、快活に展開されていく。「POPEYE編集部イチ押し推薦図書」と帯にあるのは当然だろう。本書はまさに『ワンダーランド~宝島』から同誌へと連綿と流れていった、日本のシティボーイ文化の正統なる系譜の上に立つものだ。シティボーイの「冒険」の範囲が、その伸ばしていく足先が、最果てのこの地まで届いた、ということだ。

とはいえ、その「最果ての地」と日本列島が意外に近い位置にある、という観点を、日本人は忘れてはならない(本書のなかにも、これは記されている)。「極東」にいる日本人は、いともたやすく、「極西」へとつながってもしまえるのだ。実際につながってしまった先人たちの歩みも、本書のなかには記されている。

僕自身のアラスカ観のほとんどは、どうしようもない映画やテレビ番組(『30デイズ・ナイト』や『アイスロード・トラッカーズ』)、またはジャック・ロンドンの諸作から成り立っている程度の貧弱なものだ。実際に自分の足でアラスカの地に立ったのは、12歳のとき、ロンドン郊外の寄宿学校へと向かう途中、僕が搭乗していた飛行機がアンカレッジで給油した、そのときだけだ。アラスカ・エアラインズのとてつもない尾翼絵が強く印象に残っているのだが、同社が健在であることを本書で知って、ちょっと、実物をまた見てみたい気持ちにも......ということも起こり得る一冊かもしれない。つまり、元来はさほど興味もなかったかの地に、なんらかの角度から、どんどん吸引されていく自分を発見してみる、という、そんな体験を得ることができる一冊が本書なのかもしれない。

本書に足りないものは、やはりサラ・ペイリン――というのは半ば冗談なのだが、「アラスカというとペイリンさん」というブームはあった。あれに触れたとしたら、シティボーイ度が減じてしまったのだろうか。SNLのティナ・フェイを筆頭に、のちにはジュリアン・ムーアまで、ペイリンさんのモノマネの成功例を挙げて、そのマネのポイントを解析......していったら、たしかに違う本になってしまったかもしれない。だからいらなかったのかもしれない。

ペイリン抜きでも、魅力的な一冊です。

text by DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「アラスカへ行きたい」
石塚元太良、井出幸亮・共著
(新潮社)
2,484円[税込]