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無人島セレクション

無人島セレクション

18人の選者が無人島に持っていく「本」「レコード」「映画」。

14 11/04 UPDATE

もしもあなたがこれから無人島にいくとしたら......そこに「なにを持っていくのか」という設問は、むかしからよくある。なんの「本」を持っていくのか、という問いが最も多いように思うが、ここでは、なんの「レコード」、なんの「映画」を持っていくのか、ということについても問われている。この三つの「モノ」について、なにを選ぶのか、という設問に対しての、18人のかたがたの答えがまとめられたものが本書だ。

回答者は、浅井愼平、泉 麻人、太田和彦、奥田英朗、片岡義男、亀和田 武、熊谷達也、椎名 誠、ジョン・カビラ、しりあがり寿、高橋幸宏、立川志らく、玉村豊男、萩原健太、古田新太、細野晴臣、誉田哲也、松山 猛の各氏。この錚々たる顔ぶれが選んだ、レコードと映画と本が、なんと、全ページ・フルカラーで紹介されている。各アイテムについて、しっかりとテキストを掲載して4ページも費やす、という点でも豪華な一冊だ。

さてところで、「映画」をどうやって無人島に持っていくのか。DVDなりBDなりといったパッケージにて携行していく、というのが、設問の際の暗黙の了承となっているようなのだが、だとしたら「その無人島には、電気はあるのか?」ということが、僕はまず気になってしまうのだが、本書の顔ぶれのなかにもそういう人がいた。片岡義男さんがそうだ。そこに記録媒体の再生装置や四十インチのモニタがあり、電力が安定供給されているのだったら「もしそうだとしたら、そこは無人島とは呼べないような気がする」と、あっけらかんと卓袱台を引っくり返す(?)ようなコメントがあったりするところも楽しい。また、その片岡さんが、アメリカン・カートゥーンにおける古典的なモチーフ「無人島マンガ」について言及したあとで、つぎの項に登場してくる亀和田 武さんが、まるで引き継いだかのように、その話題から自らの原稿の始めていくところなど、興味ぶかい。なぜならば、回答者の並びは五十音順だから、亀和田さんがこの話題から始めたのは「たまたま」だったと考えられるからだ。つまり、そういった「たまたま」がいたるところで起きる(かもしれない)という化学反応を楽しみながら、通読してみるべき一冊が本書なのかもしれない。もちろん、各セレクターのファンの人は見逃してはならないだろう。なぜならば、こうした場は一種の真剣勝負のフィールドとならざるを得ないからだ。「なにを選ぶのか」という。

かく言う僕は、なにを持っていくのか? そう自問して最初に頭に浮かんだのはパッケージではなく、MacBook とソーラー発電および衛星通信のシステムだった。「なにか一冊(あるいは一枚)」という単位で「選ぶ」という行為、本書の設問を成り立たせるレギュレーションから、すでにして完全に、我々の日常は逸脱してしまっているのかもしれない。だからじつは、こうした企画が成り立つ、ほぼ最後の瀬戸際というタイミングが現在なのかもしれない。そういった意味でも、今後、ことあるたびに振り返られる可能性すらある書籍が本書なのではないか。ページを閉じたあと、そんな感慨が僕のなかに残った。意外や本書こそ、これから無人島にいく人に対して、まずは最初にお薦めしてみるべき一冊なのかもしれない。

text by DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「無人島セレクション」
無人島セレクション編集部・編
(光文社)
2,000円[税抜]