honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

「ザ・クロニクル  戦後日本の70年」第1巻、第4巻

「ザ・クロニクル 戦後日本の70年」第1巻、第4巻

戦後日本の歩みを振り返る「ヴィジュアル戦後史」の決定版。

14 11/25 UPDATE

2015年、第二次大戦終結後70周年となるのを記念して、共同通信社が手掛ける一大プロジェクトがこれだ。全14巻、写真集のような大判の書籍で、戦後日本の歩みを振り返る「ヴィジュアル戦後史」の決定版を目指すのだという。共同通信および全国の新聞社が保有する写真アーカイブ、そこから選んだ貴重なショットの数々をもとに、その時代を切り出して見せていく、という作りになっていて、ムック的な構成と言えるだろう。写真とテキストの比率は写真週刊誌ぐらいの感じか。エキサイトメントが感じられる編集リズムが心地いい。ページターナーと言っていいのではないか。

これを書いている現在、第一弾として最初に発売された2冊がすでに店頭にある。第1巻の「廃墟からの出発」(1945年~49年)と第4巻「熱気の中で」(60年~64年)がそれだ。前者では五木寛之、後者では北野武が序文を寄せている。70年を14巻で割るわけだから、こうして、5年ごとを各巻で分割して掲載していくことになるようだ。第2巻「平和への試練」(50年~54年)は11月上旬に発売されて、そこから続々とリリースされていくのだという。

見どころは、いろいろある。僕は今回は、第1巻のほうが興味ぶかかった。終戦まぎわのあざやかなカラー写真から、戦後のモノクロ写真、それぞれの質感がなんともいい。写っている日本人の顔がいい。汚れて真っ黒になっている浮浪児の顔も、着の身着のままの庶民の顔もいい。つい先ごろ、ヨーロッパから逆輸入される形で日本でも話題となった、50年代の日本の刑事の日常を追った渡部雄吉の写真集『A Criminal Investigation(張り込み日記)』をご記憶の人だったら、僕がここで言及している種類の「質感」を、なんとなく想像してもらえるだろうか。「もうすこししたら、ようやく」あの写真集のフィルム・ノワール的光景へとつながっていくやもしれない、それぐらいの時期の日本。しかしまだこの時点では「焼け落ちてなにもない」、すっからかんの状態の日本。それが素晴らしい光彩を放っている。この第1巻と第4巻を同時発売するというのは、焼け野原から「ひとまずの戦後復興を成し遂げた瞬間」をまずは見せたい、という意図なのだろう。第4巻のクライマックスには、東京オリンピックの開催がある。が、僕はそれはどうでもいい。そこに至るまでの動乱にこそ目を引かれる。たとえば、社会党の浅沼稲次郎委員長刺殺事件も、あの有名な一枚以外の、その前後のショットも同じページのなかに並べられているようなところに、当シリーズの気骨が感じられる。これはノスタルジーではない。ジャーナリズムなのだ、という意志が垣間見える。

『ザ・クロニクル』宣伝のための特設サイトでは、キャッチ・コピーの冒頭に、こんな一文がある。

「『戦後』という言葉の賞味期限はもうすぐ切れそうにも思える。『ザ・クロニクル 戦後日本の70年』は報道写真でつづる最後の『戦後史』になるかもしれない。」
 
僕は当シリーズに期待するのは、こんな一文があるからだ。日本人だけが内向きになって耽溺するための素材としての「戦後ノスタルジー」に、僕は興味を持ったことは一度もない。戦前だろうが江戸時代だろうが、それが自己肯定の源泉となるものであるかぎり、一切どうでもいい。犬にでもくれてやればいい。だから、すくなくとも「つぎの」戦後には、これほどの蒙昧が生じる余地をなくしてしまうための証拠品が必要だと考える。当シリーズはその機能の一部を担えるだろうか。人の営みの集積としての「歴史」を、公正にして冷徹なる視線にてとらえてみる、という、おそらくは標準的な日本人が最も不得手としている行為の足場となるような年代記となることを、僕は切に願う。

text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「ザ・クロニクル 戦後日本の70年」第1巻、第4巻
(共同通信社)
各2,500円[税抜]