15 2/23 UPDATE
これは誉め言葉として「いかがわしい」と言わせてもらいたい。デザイン的にはすっきりしている。しかしその内容には、かぐわしいセンセーショナリズムの香りがある。たとえばそれは、アメリカのスーパーマーケットやドラッグストアで、レジスターの近くに『ナショナル・エンクワイアラー』なんかと並んで置かれている雑誌に載っているような。あるいは、僕が個人的にイギリスの赤新聞と呼んでいる『ザ・サン』や『デイリー・ミラー』のような「レッド・トップ」タブロイド紙のページの隅にあるような......そんな類いの「世界の謎」が本書には次から次に登場してくる。
「著しく危険なので」「部外者お断りのため」「どこにあるか秘密なので」――ゆえに立ち入れないとされる場所のなかから、とくに話題性のありそうなところが選ばれて、フルカラーにて紹介されているのが本書だ。サブタイトルにある二箇所のほか、エリア51やエアフォース・ワンといった有名どころ、沈没したソ連の潜水艦、グーグルのデータ・センター、バチカン機密文書館、そのほかいろいろが、写真があるものは写真付きで図解されていく(ビンラディンが潜伏していた家はイラストだった)。なかなかに面白い。
それだけに本書帯の惹句は誤解を招くかもしれない。「250点の写真・地図で、立ち入り禁止エリアに潜入!」と書かれているのだが、これはあくまで「写真や地図を見た読者が」そこに行った気になれるかも、というだけのことであって、たとえば原著者のダニエル・スミスがこのすべてのエリアに「潜入取材」をおこなったわけではない(やってたら大変だ)。というか「潜入できない」からこその本書なわけで......要するに「行くことができない」場所について、手に入る資料をもとに想像をめぐらせてみる、そんな遊びのための一冊が本書だと言える。それをことさらにオーバーに吹聴していくかのような帯の文言に、僕は赤新聞の魂を感じたのだが、実際に本書は、原著がイギリスの新興出版社からリリースされたものだったのだという。これは意外だった。なぜならば、こうした企画がナショナル・ジオグラフィックの名を冠した書籍にまとめられるのであれば、ごく普通に考えて、同社が伝統的に擁している「地球上のどこにでも」カメラを持ってつねに馳せ参じている、契約ジャーナリストたちの取材から浮かび上がってきたものに違いない、と、まずは最初に思ってしまうからだ。もっとも、僕はアメリカ版の『ナショナル・ジオグラフィック』誌とその関連書籍しか読んだことがないから、日本での展開をよくわかっていないだけなのかもしれないが。
というわけで、元来のブランド・ネームを過度に意識して見さえしなければ、これは楽しめる一冊なのではないか。こうした類いの書籍に、子供のころの僕はよく親しんでいた。「世界の七不思議」や「解剖される宇宙人」「雪男の頭の皮」といった、複写された粗い画像の写真付きの記事が載った一連の書籍、おそらくは、それこそ赤新聞的オリジンの記事の翻訳や孫引きがまとめられていたものと同質の匂いが本書にはある。それだけに、ここはひとつ、原著にはあった項目「福島第一原子力発電所」をも、カットせずに載せておくべきだったのではないか、とも思う。これほどに「謎」や「立ち入り禁止」の場所が多い日本であるにもかかわらず、取り上げられているのが伊勢神宮だけというのは寂しい。まあもしかしたら、福島第一はたんなる自粛ではない、のかもしれないが。それが載らなかったことにこそ、最大の「ミステリー」があるのかもしれない。
text by DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「絶対に行けない世界の非公開区域99
ガザの地下トンネルから女王の寝室まで」
ダニエル・スミス 著 小野智子・片山美佳子 訳
(日経ナショナルジオグラフィック社)
2,200円[税抜]