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本書は、イラストレーター、生頼範義(おうらい・のりよし)にとっての初の大規模な展覧会がみやざきアートセンターで開催されたことを記念して、彼のこれまでの作品がまとめられたものだ。ムック的な構成で、作品のみならず、立体的に彼の画業と世界観を知っていくことができる構成となっている。とはいえ――もちろんここが大事なのだが――イラストそのものも、大量に、しかもきわめて良質な印刷のもと、掲載されている。『SFアドベンチャー』誌の表紙がずらっと並ぶページなど、圧巻だ。彼のこれまでの画集は入手困難品も多かったので、本書はとても重要だ。
僕は八〇年のあのときの興奮を、いまでもはっきりと憶えている。『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』のポスター・ヴィジュアルを、初めて目にしたときのことは。最初に、絵そのものにぶっ飛ばされた。その圧倒的な質量のエネルギーに、情報とストーリーの量に、瞬間的にショックを受けた。つぎに恰好よさに感服し、そして、気がついた。これって、生頼さんの絵じゃないか、と。日本のあの生頼さんが、スター・ウォーズの絵を描いたのだ、と――本当にびっくりした。そして誇らしく思った。そのころ子供だった僕は、数々の娯楽小説のカバーを通して、彼の作品に親しんでいた。それらの小説を全部読んでいたわけではない。ただカバー・アートだけは、いつもとても強く心に残っていた。平井和正の小説シリーズ「ウルフガイ/アダルト・ウルフガイ」「死霊狩り」「幻魔大戦」。なにより、ハヤカワ・ミステリ文庫からのマイク・ハマー・シリーズ。そして、たとえばシグネット版のスピレイン本の表紙絵などに、生頼さんの絵柄の源流があるようにも、思えたりもしていた。そんな彼が、スター・ウォーズの国際版のメイン・ヴィジュアルに起用された、ということは、大事件だった。たんなるいちファンだっただけの僕にとってすら。
生頼範義が描く人物像は肉感的だ。欧米人的な骨格を持つキャラクターが多い。力強いタッチで、彼ら彼女らの「存在感の厚み」とでも言うものが、絵のなかに塗り込められていく。と同時に、細密でもある。果てしないほどの奥行きと、幾重にもかさなったレイヤーのそれぞれに、数えきれないほどの要素が、それぞれ同時に屹立している、というモチーフが多い。そして、そんな全体をまとめ上げている、透明感の高い「緑色」――その魅力が存分に堪能できて、それが生み出された背景にも迫ることができる、贅沢な一冊がこれだ。
DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「生頼範義 緑色の宇宙 (玄光社MOOK illustration別冊) 」
生頼範義・著 オーライタロー・監修 みやざきアートセンター・企画協力
(玄光社)
2,000円[税抜]