16 5/18 UPDATE
ANA、つまり全日空のオフィシャル・ファンブックといった趣きの一冊だ。豊富な写真とすっきりしたデザイン、もちろんフルカラーで、日本を代表する航空会社のひとつの全貌を見てみることができる。
会社というのは職業人の集合体だ。だから本書の主役は、様々な職種のANAのスタッフたちだ。客室乗務員、グランドスタッフ、機体塗装担当者、装備品整備士、ダイヤ編成チーム、アプリ開発者まで、プロフェッショナルとしての日常業務が紹介されていく。その背景にあるのは、誇らしげに飛び立っていく機体と、群青の空の下に広がる「エアポート」という名の大空間だ。「ヴィジュアル版・大人の会社案内」と惹句にはあった。まさしくそのとおり、あなたにもし宗教上の理由でもないかぎり(つまりJAL派でないかぎり)、手にとったならきっと楽しめる一冊となるはずだ。
かくいう僕も、かつて宗教上の理由から(この場合はつまり、なによりもまず米ユナイテッド航空のマイルを貯めることに精進していたから)、国内便に搭乗するときはANAが多かった。そんな僕の立場からANAを褒めるとしたら、まず、『翼の王国』という機内誌の存在を挙げたい。90年代の同誌は、ちょっとすごかった。とくに海外取材など、そこまで予算をかけるのか、とショックを受けるぐらいの充実ぶりだった。小鷹信光さんが、フィリップ・マーロウのオフィスのようなご自身の書斎にて、『翼の王国』のバックナンバーの束を手に、僕に取材裏話を語ってくださったことがある。ルート66走破、ウイスキーとゴルフ、またゴルフ......そんな話だ。同誌には片岡義男さんもよく載っていた。
僕の女友だちのひとりがANAのスタッフと結婚したこともある。整備士の彼は、普段はいつも細いスーツで決めていて、聞けば、モッズ・チームに所属していたのだという。モッズとANA、これもいい取り合わせだ。ターゲット・マークを機体に描いてはいけないのだろうけど。
というわけで、なんというか僕は、ANAという存在のぜんたいに対して、ぼんやりとした好感を抱いている。ANAの企業スローガンが「あんしん、あったか、あかるく元気!」だということを、僕は本書で初めて知った。そして驚いた。だってこんな文言、普通だったら絶対に僕は鼻白むのに、そうはならなかったのだから。「ANAならば、それもしょうがないか」と、ごく自然に許容してしまう自分がそこにいた。一種の風通しのよさと言ってもいい、あっけらかんとした雰囲気がANAにはある。きっとそんなところが、僕の好感の源なのだろう。そしてそんな雰囲気は、本書の隅々にまで行き渡っている。
かつて、渋谷系の末期ぐらいの時期に、「空港系」なんて言葉が一瞬流通した。セイント・エチエンヌが「デパーチャー・ラウンジ」という曲を発表したりもした。そんなテイストが好きな人にも、本書はお薦めだ(宗教上の禁忌に触れないかぎり)。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「ANAの本。: 舞台裏を覗けば、もっと好きになる! 」
誠文堂新光社・編
(誠文堂新光社)
1,600円[税抜]