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写真や図版などの、もちろんすべてフルカラーの画像が1,000点。詳細な年表と索引にて引き出される項目の数は、なんと3,200(!)。だからこの価格は高くない(25,000円)と、僕は思う。ファッションの歴史のすべて――ではなくとも、きっと「おそらく、ほとんど」を、あたかも一冊のなかにまとめてしまったかのようにも感じられる、これこそまさに決定版、全576ページのヴィジュアル百科事典が本書だ。
第1章のスタートは「紀元前500年」だ。そこから1599年までがここに含まれる。古代ギリシアとローマの衣装から、古代アメリカ南西部の織物、中国は唐代の衣装、日本は平安時代のそれ、そして中世ヨーロッパ~ルネサンスから、オスマン帝国の宮廷衣装、インドのムガール帝国まで......勘のいい人ならお気づきのとおり、「ここだけで」へたな百科事典一冊分以上の密度がある。第2章は200年、そのあとは100年から50年刻みで「ファッション史」をじっくりと見てまわる。最後の第6章では、e コマースの台頭まで語られる。また、本書がカヴァーしている地域が、まさに書名どおり「全世界」と呼ぶべき広がりを持っていることも特筆しておきたい。ヨーロッパ、ユーラシア、中東からアフリカ、南北アメリカ......「ファッション」をキーワードに眺めてみた、人類の文化史早見事典のようですらある。
といったスケールの大きさ、網羅性に富んでいることはもちろん、編集の手際がいいことも本書の美点だ。「読みもの」としても面白いページが多い。「ピルグリムパンプスの流行」に、しっかり見開き2ページ使われているところなど、大胆で好感が持てる。言い換えると、こうしたフォーカシングを自由自在におこなえるだけの、がっちりした構造が本書のなかにはあるわけだ。たんに服の解説をするだけではなく、生産者や着る人への視線がつねにある。環境への視線もある。その一着の服の周囲にあった、社会的・経済的なバランスをも、同時に描き出そうとする――こうした当たり前の学究的姿勢が、あたかも頑丈な構造体のように本書のなかをつらぬいているところが、自由さの前提となっている。これがとてもいい。
コシノヒロコさんは、本書に向けて「『ファッションとは何か』という根源的な問いに答える、他に類をみない貴重な書」というコメントを寄せている。この意見には、僕も大きく首肯する。デザイン事務所だったら、まずは絶対に常備しておかなければならない一冊だろう。社会学、博物学、文化人類学的価値も高いはずだ。これを読んでいるあなたが図書館司書だったら、迷うことはない。予算を使うべき一冊とは、まさにこんな本のことを指す。書架にあり続けるべき本とは、こんな本のことを指す。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「FASHION 世界服装全史」
マーニー・フォッグ 編
伊豆原 月絵 監修
(東京堂出版)
25,000円[税抜]