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Outside the Lines:Lost photographs of punk andnew wave's most iconic albums

Outside the Lines:
Lost photographs of punk and
new wave's most iconic albums

有名作のジャケットに”選ばれなかった”写真集。

16 7/27 UPDATE

採用された一枚のジャケット写真の影には、数多くの「それ以外のショット」がある――ことが多い。フォトセッションがおこなわれたならば、ごく普通に考えて、ある程度の数のショットが撮影されたはずだからだ。ゆえに、「選ばれた一枚」を目にしているときの僕らは、じつはそのとき同時に「選ばれなかった」その他のショットをも幻視しているのかもしれない。「一枚」のなかに切り取られ、静止させられた「時間」の前後のことをも、かなりの確率で、ついつい想像してしまっている、のかもしれない。

と、そんなことをも考えさせられてしまう一冊がこれだ。タイトルどおり、パンクとニューウェイヴ・ロックの名盤、有名作のジャケット写真の「アウトテイク」を集めた写真集だ。たとえば、ラモーンズのあのファースト・アルバム。4人が横一列に並んだ、あのアイコニックな画像のアウトテイクでは、棒を持ったディー・ディーが他のメンバーを追い回していたショットもある......なんて聞いたら、これは見なければいけないでしょう! 同じくファーストのジャケ撮影時、「オデオン」と記された映画館の屋根になぜか上っているスペシャルズ全員、というのも、かなりいい。しかしやはり、デヴィッド・ボウイの『ロジャー』のジャケット写真、あの不思議に顔がひんまがり、スーツが乱れた姿がどんなふうにして撮られたのか、その仕掛けが一目瞭然でよくわかるところなど、とても面白い。ボウイと言えば、訃報以来とても有名となった、鋤田正義さんの「『ヒーローズ』ベタ焼き」もここに収録されている。

そのほか、イギリスからはダムドのファースト、イアン・デューリー『ニュー・ブーツ・アンド・パンティーズ』、ジャムの『イン・ザ・シティ』、コステロの『ディス・イヤーズ・モデル』、PILの『セカンド・エディション』、バウ・ワウ・ワウのあのファースト――などのオフショットが掲載されている。アメリカからは、ハートブレイカーズの『L.A.M.F.』というのが泣かせるし、ブロンディの『パラレル・ラインズ』、イギー・ポップの『TVアイ』は見ないわけにはいかない。そのほか、リジー・メルシエ・デクルーはいるし、B-52sやリディア・ランチもいるし、鋤田さんのYMO『ソリッド・ステート・サヴァイヴァー』やシーナ&ロケッツの『真空パック』もある......1976年から82年あたりにかけて、東京も含む、世界の一部都市にて巻き起こっていたロック刷新の嵐とはなんだったのか、ユニークな角度から眺め直してみることすらできる、そんな良書が本作だと言える。 

あなたがバンドマンやカメラマンだったら、きっと得るところ多い一冊なのではないか。ファッション的にも、いまちょうどいい感じのあたりなのではないか、と僕は思う。

text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「Outside the Lines:
Lost photographs of punk and new wave's most iconic albums」
Matteo Torcinovich, Sebastiano Girardi 共著
(Mitchell Beazley)洋書