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くらべる東西

くらべる東西

関東と関西。「くらべる」シリーズの第一作。

16 9/27 UPDATE

売れているようだ。本書は「目で見ることば」シリーズを手掛けた著者が、新たに取り組んだ「くらべる」シリーズの第一作。東と西で――つまり関東と関西で――同じものなのに「違う」事例を、写真を並べつつ検証していく、という作りの一冊となっている。銭湯の違いを示した表紙のように、「東と西」を割り振りしていくのだが、その際に効き目を発揮しているのが横長の判型だ。左ページに「東」の、右ページに「西」の、それぞれ横位置の写真を配しながら、軽妙な語りによって「違っているところ」やその理由が示されていく。

本書のなかで東西比較されている項目は、全34種類ある。「食べものから生理用品まで」取り上げられている。ところで僕は関西と関東の両方に暮らしたことがある。世田谷で生まれ育った子供、と言っていいはずの僕なのだが、かつて一時期、大阪に暮らしたことがあるのだ。だから身体のなかのどこかに「西の痕跡」が残っていることを自覚している。であるならば、本書の中身について、あまりにも当たり前でつまらない――と感じてもいいようなものなのだが、まったくその逆だった、ということをここで強調しておきたい。それどころか、きわめて新鮮な驚きに満ちていた。

僕は東西の「ぜんざいの違い」は、まったく知らなかった。「いなり寿司の違い」は、言われてみれば「知っていた」かもしれない(関東は俵型、関西は三角)。タクシーは、たしかにそうだ。西のタクシーはなぜかとにかく「黒い」。そして自分のなかに、東西のスタンダードが混在していることにも気づかされた。ぜんざい、いなり寿司は、僕のなかに「西の感覚」が色濃くある。タクシーは東、そして銭湯の湯船は「東のものしか見たことない」と強く思う......と、そんな具合に、あっという間に全ページを眺めつくしてしまうこと必至の一冊が本書なのだ。あなたの出自が西でも東でも、あるいは、その二分割では形容しづらい地域であったとしても、きっと楽しむことができる、文化的差異を比較してみたヴィジュアル・ブックの良書だと言える。縄文土器に東西の違いがあることなども、僕は知らなかった。

そしてまた、東西や南北の「違った文化」が、ひとりの人のなかに混在していることの面白味をも、本書にて再認識することになる読者が多くいればいいなと思う。もしあなたが、うどんは関西風でなければ駄目なのだが、蕎麦は関東風に限ると信じていて、そして両方を、そのときどきによって選んで食べているような人(僕がこれなのだが)だったならば、存分に面白がることができる一冊が本書であるはずだ。

text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「くらべる東西」
おかべたかし、山出高士 著
(東京書籍)
1,300円[税抜]