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「これで完全な手になった!」と、妻子を奪ったエロ判事に復讐を誓う理髪師スウィーニーが、鋭利に光るカミソリを手にして高らかに叫ぶ。おお。これは悪い冗談だ。スウィーニーを演じるはジョニー・デップ、監督ティム・バートンとの初コラボといえば、あの異形の感涙作『シザーハンズ』。両手のハサミをカミソリに持ち替えてってことなんだろうけど、アレを想像すると度肝を抜かれること必至。
名高いスティーヴン・ソンドハイムの殺人ミュージカルを映画化したものだが、いやあ、こりゃもうやりたい放題。B級C級Z級(なにしろこのコンビで史上最低監督エド・ウッドの伝記映画まで作ってるんだから)の嗜好が強いバートンだが、実は今まであまり「血」を画面に出してはいなかった。しかし、これはどうだ。題材が題材だからねとばかり、バッド・テイストな美学を極限まで開陳し、観る者を怯ませるグラン・ギニョール(血みどろ)にしちまってるのである! 喉かっ切るたびに血がブシュゥゥゥッ、死体が地下に落ちるたびに頚骨ゴキッ。無論これはミュージカルであるから、奇怪で複雑なワルツを歌いながら…ときたもんだ。ふたりのクラシック怪奇映画趣味の発露か、ほとんどモノクロに近いほど色彩を抜きながらも、血液だけ異様なまでに鮮やかに処理してることとも相俟って、歌と殺人の完全なる同居にクラクラする。
しかも19世紀末、工業化が進んだロンドンを象徴するように、街の遠景には常に煙突から黒い煙がたなびき、人肉パイを焼きつづける理髪店直結パイ屋の煙突と重ね合わされる。いつしか復讐という目的はどこへやら、仕掛けを施した理髪椅子=処刑椅子のメカニズムを歓ばせるために、あるいは搾取され貧困に苦しむ市民の腹を膨らませるために、殺人は流れ作業的に遂行されていく。おお、これはまさに9.11以後の世界の皮肉でもあるんじゃないか。そう考えれば近年このミュージカルのリヴァイヴァルが相次ぐ理由もなんとなく頷けるし、バートンは現代世界の影の部分で夥しく流されている血をまざまざと見せつけてくれるのだ。
しかしラスト、滝のように流れる血はどうしようもなく凄絶にして美しいのである。
Text:Milkman Saito
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』
監督:ティム・バートン
製作総指揮:パトリック・マコーミック
原作:スティーヴン・ソンドハイム、ヒュー・ウィーラー
脚本:ジョン・ローガン
出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン、サシャ・バロン・コーエン、ティモシー・スポール他
2007年/アメリカ
原題:Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street
上映時間:117分
配給:ワーナー・ブラザース映画
※R-15 15歳未満の方はご覧になれません
http://wwws.warnerbros.co.jp/
sweeneytodd/
2008年1月19日 (土)、丸の内ピカデリー1他全国ロードショー
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