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粒子が粗く、そのシャッター音のために同時録音ができない、いわゆる現在の映画作りに不向きなカメラをあえて使用し、全編を撮影した「砂の影」。その世界観はいわずもがな、強烈な個性を放っている。本作の監督は、西島秀俊主演のデビュー作「すべては夜から生まれる」で、刺さるほどの乾いた空気感を表現し、映画関係者から高い評価を得た甲斐田祐輔。その彼の次なるこだわりは、ノスタルジックでは片付けられない、8ミリフィルムの可能性。1980年代初頭、練馬で起きた“ラストダンス殺人事件”をモチーフに、甲斐田祐輔が人の心のわずかな震えを繊細に描き出す。そこにはハイテクな映像では表現できない、喜びや悲しみといった感情を包括する“人間らしさ”が凝縮されている。
恋人・玉川と暮らすユキエ。彼女は会社に通い、目立たないOLとして日々を過ごしている。その普通な生活を好み、家に帰れば玉川との純粋な愛を貫いていた。時に自ら玉川を誘い、唇を重ね抱擁し、そして無邪気にダンスを踊ったり……。その誰も踏み入ることのできない二人の世界にユキエの同僚である真島が現れた。彼がユキエに好意を抱き続けるとで、彼女の世界のバランスが狂い始める。本当のことは何だろう? その答えはあるのだろう? その先に見える光は……。説明することのできない男たちの感情を、もし言葉にするなら、それは“彼らは愛に襲われた”ということである。
キャスティングも個性派が揃った。影のように生きながら、激しく愛だけを求める女のユキエを演じるのは江口のりこ。そして、彼女を愛する二人の男にはARATAと劇団ポツドールの米村亮太朗。その他に矢吹春奈や光石研、山口美也子などが脇を固め、各自の個性と存在感で“愛に襲われた”ユキエの世界を際立たせている。また、撮影はたむらまさきが担当。小川紳介監督「日本解放戦線・三里塚」(1970年)や相米慎二監督「ションベンライダー」(1983年)、青山真治監督「ユリイカ」(2001年)など、国内はおろか国際的にも注目を集めているベテランカメラマン。そんな彼の長いカメラ人生の中で初となる8ミリカメラでの撮影も、本作の見逃せないポイント。また、本作は第37回 ロッテルダム国際映画祭 Sturm und Drang部門に出品されることも決定した。
Text:Atsuo Watanabe
『砂の影』
脚本・監督:甲斐田祐輔
企画・プロデュース:越川道夫
制作:滝口雍昭
撮影:たむらまさき
音楽:渡邊琢磨(COMBOPIANO)
出演:江口のりこ、ARATA、米村亮太朗、矢吹春奈、光石研、山口美也子
上映時間:76分
配給:スローラーナー
2月2日(土)より、渋谷ユーロスペースにてレイトショー
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