08 2/05 UPDATE
19歳でラリー・クラーク『KIDS』('95)の脚本を書き、そのあとすぐに『ガンモ』('97)を監督して'90年代のアンファン・テリブルとなったハーモニー・コリン。強烈に露悪的、かつ天国的に透明な映像はアウトサイダー的な美意識と歪んだ魅力に溢れていた。だがその後、ドグマ的手法で撮った『ジュリアン』('99)のあと、何故かぷっつりと創作活動が途絶えてしまったのだが……。
どうやら彼、本当に映画界から完全にドロップアウトしてしまっていたらしい。才能の枯渇感に襲われ、世界を放浪し、人命救助員、コック、靴屋、植木屋、果てはペルーで人面魚を探すカルト集団に加わったりもしたとか(笑)。
この旅で彼は、自分のアウトサイダー的性向とこれからも向き合わざるを得ないのだ、という決心をつけたのだろうか。8年ぶりの新作は、他人と同一化しなければ社会のなかに居場所のない人間たち……スコットランドの古城でコミューン(=ネヴァーランド)を築きあげるものまね芸人の物語なのである。主人公はマイケル・ジャクソン(ディエゴ・ルナ)、彼が恋に落ちる女性はマリリン・モンロー(サマンサ・モートン)、彼女の夫はチャップリン(ドニ・ラヴァン)。一般社会で生きて行くことが苦痛な彼らは、“地上最大のものまねショウ”を目指して自給自足の生活を始めるが……そこに待つものはどうにも哀しい。
出口を失ってしまった人々の群像はハーモニー・コリンらしいといえばいえるが、『ガンモ』『ジュリアン』にはあった絶望や悲嘆を突き抜けた果てのペシミスティックなおかしさはやや稀薄だ。彼自身の8年間が影響しているのか、あまりに自分の殻に閉じこもりすぎなのである。しかしやがて主人公はその殻から抜け出そうとし“惨めな普通さ”の中で生きていこうと決心するのだが……その途端、彼を襲うのは“いつか訪れる闇の予感”なのだ。
実は本作、ものまね芸人たちの物語と平行して語られるが最後まで混じり合わない不思議なエピソードがある。ある“奇跡”を起こしてしまう中米パナマの尼さんたちの物語なのだが……これによって芸人たちの物語までもがある種の寓意性を帯びてみえてくる。また、この尼さんを率いる神父役を、『ジュリアン』の父親役に引き続きハーモニーの心の師であるヴェルナー・ヘルツォークが演じているのもいい。むしろこちらのほうが今までのハーモニーらしいといえばいえるのだが……。
Text:Milkman Saito
『ミスター・ロンリー』
監督:ハーモニー・コリン
キャスト:ディエゴ・ルナ、サマンサ・モートン、ドニ・ラヴァン、レオス・カラックス、ヴェルナー・ヘルツォーク
提供/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
宣伝:ギャガ・コミュニケーションズ×ミラクルヴォイス
原題:MISTER LONELY
2007年/イギリス=フランス
上映時間:111分
シネマライズ他公開中
© 2006 O'South Limited, Love Streams agnes b. Productions, Metropolitan Film Productions Limited and Fuzzy Bunny Inc.