08 2/18 UPDATE
日本でも2006年に公開され、一部の好き者に熱烈に支持された『ナイト・ウォッチ』というダーク・ファンタジー映画があった。'04年にロシア国内の興行成績を塗り替えるメガヒット、アメリカでも異例の成績を記録し、監督ティムール・ベクマンベトフの新作はジェイムズ・マカヴォイ&アンジェリーナ・ジョリーを起用したハリウッド映画だ。
……というのは数年前なら優等生的出世コースとして認識されたかも知れないけど、いまやハリウッドは他国の才能に窮地をすがりまくるテイタラク。もちろん、ベクマンベトフの才気を求められるのは当然とさえ思えるが、だからこそ「大丈夫なのかなあ、こんな突っ走りっぷりで」とチト不安に思ってしまうところが本作のホントのスバラシさでもある(笑)。
そもそもストーリーに目新しさを求めてはいけません。この世界の裏側には、超人間的な能力を持つ“光の勢力”と“闇の勢力”があり、光が闇を、闇が光を監視しあって均衡を保ってきた。しかしある少年の誕生でそのバランスが崩れはじめ……というのが、まぁ前作のお話。そこに吸血鬼だの変身能力だのホラー/ファンタジー系のお約束事が絡んでくるわけで、それだけ取ると『アンダーワールド』等とさほど変わらぬ世界観だ。
でも前作がユニークだったのは、土台となる世界のあまりの下世話ぶり、現代ロシア社会の低・中所得者層のリアリズム。そんな世界観を引き続き踏まえつつ、さらに大風呂敷を拡げに拡げまくって語られるので、まぁ前作を観てないとかなりツラいのは必定ですぞ(笑)。
とにかく呆れるほどのアイディアがてんこ盛り。それを惜しげもなく提出しつつ、マトモに回収もせぬまま話を進める強引さが度を越してる。本作の主題となる「魔法のチョーク」自体、そんなん初出もエエとこやん!(笑)……結果、投げ捨てられるエピソードは死屍累々、これは明らかに映画としては欠点以外の何物でもない。
でもね、その知らん顔しっぷりがなんだか潔くっていいんだなぁ。理に適った展開なんてハナっから考えていないというか、とにかく面白い要素はどんどんブチこんで最後だけなんとなくまとまっちゃえばいいや、というか(爆)。映画に厳密さを求める向きには拷問でしかないだろうが、あれこれ惑いのないエンタテインメント希求者には清新でとてもイイ。
でも確かコレって、三部作の第二部なはずだよね? どーすんの、これから?……ってのもお楽しみだがもうひとつ。本作を劇場でぜひ楽しんでいただきたい理由のひとつが、英語字幕の徹底的な遊び! ロシア語映画である本作、日本語字幕とともに併記されるそれが常軌を逸して凄いのだ! 憎々しく壁に投げつけた牛肉の血が“Bitch”と残って垂れ落ちたり、ケイタイの電波状態に合わせて字幕がフラッシュしたり……DVD化に際しては削除されるであろうコレって、異言語に対する極めてグラフィックなアプローチだと思うんだけどね。
Text:Milkman Saito
『デイ・ウォッチ』
監督・脚本:ティムール・ベクマンベトフ
製作:レネ・バウセガー
出演:コンスタンチン・ハベンスキー、マリア・ポロシナ、ウラジミール・メニショフ、ガリーナ・チューニナ、ヴィクトル・ヴェルズビツキー、ジャンナ・フリスケ
配給:20世紀フォックス映画
2006年/ロシア
原題:DAY WATCH
上映時間:131分
http://microsites2.foxinternational
.com/jp/daywatch/
お台場シネマメディアージュ他全国公開中
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