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『トゥヤーの結婚』

『トゥヤーの結婚』

精神の深層に触れるような土俗的パワーがここにはある。

08 2/27 UPDATE

ここ数年、モンゴル(および中国の内モンゴル自治区)を舞台にした映画が流行(?)している。

延々と続く緑の草原。地平線が見渡せるようなダイナミックな大地。居住地を定めぬ遊牧の生活。日本人にとっては顔つきも含め、どこか郷愁を感じさせるものもある。ま、確かに都会の喧噪から逃れたがっているヒトビトには癒しに繋がるものかもしれないし、おまけに地球温暖化の影響による砂漠化や、遊牧を止め定住を始める人々のライフスタイルの変化などというエコな話題にも事欠かない。

でもこの映画、そうしたものとは根本的に別のものなのだ! ま、物語の発端にはそうした「変化」が巧みに活かされてもいるのだけど、もっと精神の深層に触れるような土俗的パワーがここにはある。そう、あのラテンアメリカのマジック・リアリズムを思わせるような。いや、80年代なかば、現在に至る中国映画隆盛を導いた陳凱歌(チェン・カイコー)の『黄色い大地』(’84)や張藝謀(チャン・イーモウ)の『紅いコーリャン』(‘87)をはじめて観たときの、椅子から立ち上がれないような衝撃に似たものさえ感じさせるのである。監督は彼らの次世代……いわゆる中国第六世代に属する王全安(ワン・チュアンアン)。昨年のベルリン映画祭で金熊賞を獲ったのも、おそらく審査員たちが同様の感慨を得たからではないか。

これも大地が乾いた結果なのか、井戸堀りの最中に事故で下半身麻痺してしまった夫を持つトゥヤー。気丈な彼女も幼い子供を抱え、働けぬ夫が次第に重荷となっていく。それを察した夫は離婚を求めるが、それに同意する代わりに、とトゥヤーが裁判所に申し出たのは……「“下半身不随になった元・夫とともに嫁ぐ”という条件で新しい夫を探す」ということだった!

やがて元クラスメートで今は石油成金になった男が求婚してくる。いっぽう彼女を昔から愛しながらも何をやっても巧くいかず、妻にも逃げられたお調子者も存在をアピールしてくる。トゥヤーと三人の男たちの物語は、赤土を剥き出しにした荒々しい大地と怜悧な陽光の中で、可笑しくも煉獄的に展開していくのだ。それは本質的な部分で西部劇(たとえばサム・ペキンパーのそれのような!)にも通じるもの。ハードボイルドな女主人公(演じるユー・ナンはこれでブレイクし、次作はウォシャウスキー兄弟による「マッハGoGoGo」の映画化『スピード・レーサー』だ!)に加え、さらにハードボイルドでダイナミックで詩的なキャメラ(なんとドイツ人である)に圧倒されるべし。

Text:Milkman Saito

『トゥヤーの結婚』

製作:コン・ターシュン
製作総指揮:ユアン・ハンユエン、ワン・ルー、チェン・ツーチョン
制作:ヤン・チュイカン
脚本:ルー・ウェイ、ワン・チュアンアン
監督:ワン・チュアンアン
出演:ユー・ナン、バータル、センゲー
2006年/中国
原題:図雅的婚事
上映時間:96分
提供:ワコー+マクザム+衛星劇場
後援:中華人民共和国駐日本国大使館文化部
協力:フォーカスピクチャーズ
配給:ワコー+グアパ・グアポ
宣伝協力:スローラーナー

http://www.tuya-marriage.jp/

Bunkamura ル・シネマにて公開中