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『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

本作の真の面白さは、
権威をふりかざす組織への反骨のムードだ。

08 3/07 UPDATE

ファンタジー好きならずとも書名くらいは聞いたことがあるだろうイギリスの児童文学を、豪華キャストを揃えて三部作で映画化!

……と大きく打って出たニューラインシネマ。欧州での大ヒットに比べてアメリカの成績がさほど振るわず、続行はいまや日本にかかっている!とのウワサもある「ライラの冒険」。でも観てうむうむとうなずいた。この人物造形の複雑さ、設定のユニークさはアメリカ人すべてに理解できるものではない。ましてや……あろうことか「教会」(映画では「教権」と訳されてるが)が悪役と来た日にゃ! いや、そんな反応は原作読んだ時点で判ること。やっちまったからには、ぜひとも完成してもらわなきゃ困るシリーズですよ、これは。

物語の発端はパラレルワールドのオックスフォード。学寮に預けられている12歳のおてんば娘ライラ(出生の秘密あり)は、学者であり探検家である叔父(現007のダニエル・クレイグ)の掴んだ「世界の真実」を知ってしまったことをきっかけに、リンゴを噛んだアダムとイヴよろしく、心ならずも教権の統べる「神の国」から脱し、放浪民のジプシャンたちとともに宇宙の真理へと近づく冒険へ出ることになる……

視覚的に面白いのは、この併行世界では人間の「魂」がそれぞれ「ダイモン」と呼ばれる動物のかたちをとり、守護精霊として常に傍らにいること。また北方の地には鎧熊族(文字通り白クマだ)がダイモンを持たない種族として王国を構え、シェイクスピアじみた権力争いがあったりもする。そうしたCGによる動物イフェクトも実によくできており、クマ同士のバトル・シーンも含め見せ場はたっぷりだ。また半中世的な世界観もデザイン的にかなり微細で楽しめる。

でも本当の面白さは、先に書いたような反教会的……というか、教義に汲々とし隠然たる権威をふりかざす組織への反骨のムードである。そのあたり、原作よりソフトにした、ということだがなんのなんの。原作知らなくてもじゅうぶん伝わるんだもの(笑)。ちなみに僕は映画のあとで原作に接したが、ライラの叔父も、彼女を庇護しつつ脅かすコールター夫人(ニコール・キッドマン)もこの先エラいことになっていく(笑)。この善悪が判然としない…いわば現実的なキャラクター設定は、上質のファンタジーやアニメーションに触れることの多い日本人にはより受け入れやすいものだろう。

主人公のライラを演じるダコタ・ブルー・リチャーズ、ちょっとミニ・ケイト・ブランシェットのようでやたらと巧い。白熊の王の前で悪女を装うシーンなんてちょっとドキッ。齡取らないうちにさっさと3作撮りあげていただきたい。

惜しむらくは上映時間が2時間弱であることだ。何故こんなに物語るのを急ぐかなあ。あと30分は長くてもオトナには耐えられる出来なのにね。

Text:Milkman Saito

『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

原作:フィリップ・プルマン
監督・脚本:クリス・ワイツ
出演:ニコール・キッドマン、サム・エリオット、エヴァ・グリーン、
ダコタ・ブルー・リチャーズ、ダニエル・クレイグ
プロデューサー:デボラ・フォート&ビル・カラッロ
編集:アン・V・コーツ
衣装:ルース・マイヤーズ
美術:デニス・ガスナー
撮影監督:ヘンリー・ブラハム
配給:ギャガ・コミュニケーションズ/松竹
2007年/アメリカ/
原題:The Golden Compass
上映時間:112分

http://lyra.gyao.jp/

丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開中

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