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『地上5センチの恋心』

『地上5センチの恋心』

軽妙にしてやたら滋味深い、
格差恋愛のラブコメディ。

08 3/10 UPDATE

筋だけみれば他愛ないのに、なぜこんなに沁みるんだろう。中年男女の、いわば格差恋愛のラブコメディだが軽妙にしてやたら滋味深い。なんでも監督エリック=エマニュエル・シュミットは、僕の大好きな『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』('03)の原作者にして、フランスじゃ知らぬ人のいない人気劇作家/小説家だとか。いや実に、俗っぽさの中に精神的な幸福のありかたの真実を突いていてはっとさせるものがあるのだ。

オデットは50歳目前の未亡人。昼はデパートに勤め、夜は内職でキャバレーの羽根飾り作り。それでもヘンにのんびりと、女手ひとつでふたりの子供を育ててきた可愛い肝っ玉母さんだ。といっても息子は恋人を取っ替え引っ替えするゲイの美容師、娘は足の臭いグータラ彼氏をウチに連れこむプー太郎。理想の家庭には程遠いが、ま、若いんだからそんな時期もありますよ、といたっておおらか。南の島の夕景のロマンティックな壁紙と好きな人形たちとジョゼフィン・ベイカーの歌に囲まれていれば幸せいっぱい、寝る前にお気に入りのロマンス小説を読めばココロ穏やかになれるのだ。

一方、彼女の幸福感の源泉たるロマンス作家バルタザールはどん底の鬱状態。二枚目の四十男で確かに売れっ子ではあるけれど、当然ファンは趣味のよろしくない女子供(たとえばオデットのような!)ばかり、おまけにTVで新作を完膚なきまでに酷評され、その書評家に妻まで寝取られて自殺未遂。そんな彼を病院のベッドで癒してしまったのが、サイン会で貰った一通のファンレターだった。身も心もボロボロになったバルタザールは住所を頼りにオデットのウチへ向かう……。

脚本も巧いが、とにかく主演のふたりが素晴らしい。オデット役は『家族の気分』('96)『奇人たちの晩餐会』('98)、『女はみんな生きている』('01)等々のカトリーヌ・フロ。バルタザール役は『ベルニー』('96)や『ブルー・レクイエム』('04、これはサスペンスの大傑作!)のアルベール・デュポンテル。ともにいまやフランス一のコメディアン、コメディエンヌだから面白いように観客の心情をコロコロ転がしてくれる。さらに楽しいのがオデットの幸福感や周囲から少し浮遊している感覚の表現。彼女は嬉しさに満たされたとたん、ジョゼフィン・ベイカーの歌声とともに地上から身体が浮き上がるのだ!いや、僕はかなりのベイカー好き(とりわけビギン!)なもので、それだけでも涙モノなんだよなあ。ただし邦題に反して……最低でも30センチ、最高で30メートルは浮遊してますけどね(笑)。

Text:Milkman Saito

『地上5センチの恋心』

監督・脚本 : エリック=エマニュエル・シュミット
出演 : カトリーヌ・フロ、 アルベール・デュポンテル、ファブリス・ミュルジア、ジャック・ウェベール、アラン・ドゥテー
配給 : クレストインターナショナル、ヘキサゴン・ピクチャーズ
2006/フランス=ベルギー
上映時間:100分
原題:ODETTE TOULEMONDE

http://www.chijou.jp/

シネスイッチ銀座にて公開中
ほか全国順次公開予定

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