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『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

懐かしくも瑞々しいウォン・カーウァイ節ダイアローグの洒落たムードも含め、原点に帰ったようだ

08 3/28 UPDATE

『花様年華』('00)『2046』('04)と作品を重ねるごとに、それまで自分が築き上げてきたスタイルや物語を収束させるほうに向かっていたような近年のウォン・カーウァイ。画面や語法はますます複雑かつ審美的になったものの、まとまるにはまだ早い、って感もあったのは確か。

ところがどうだ。初の英語作品となる本作は『恋する惑星』('94)の頃に戻ったかのような懐かしくも瑞々しいウォン・カーウァイ節。なんと主演はあのノラ・ジョーンズだけど、ま、御存知のようにシタールの巨匠ラヴィ・シャンカルの娘であるから、すなわちインドの血を引いている。そんな彼女に女優デビューを促したカーウァイのアジア人気質もなんとなく嬉しいじゃないか。

物語は大きく3パートに分かれるが、NYのカフェで夜な夜な綴られる、男にフラれた女ノラと彼女を慰めるオーナー(ジュード・ロウ)との交歓を描く最初のパートが全体の通奏低音となっている。その味付けは、決まっていつも売れ残る甘く酸っぱいブルーベリー・パイ。ふたりのあいだには恋の予感が目覚めながらも、まだ元カレを吹っ切れないノラはひとり旅に出る。

NYを離れて57日後。メンフィスのバーで出会うのは、去った妻を忘れられずアル中になった警官(デイヴィッド・ストラザーン、巧い!)とその美しき人妻(レイチェル・ワイズ、これまた巧い!)の物語。別れても好きな人、ってワケじゃないが、いなくなると確実に自分の中の何かが死んでしまうような腐れ縁で結びついた中年の物語がやたら胸に沁みる。

NYを離れて251日後。ラスヴェガスのカジノで出会うのはジャガーに乗った若き女性ポーカー師(ナタリー・ポートマン)。「人を信じるな」と父親に教えられてきた女性との数日間の旅を経て、ノラはまたNYへと舞い戻る。

そりゃあ、ずっとカーウァイ映画を追いかけてきた世代にとっては、もしかすると本作は退化かも知れない(ちょっとコマ伸ばしが多すぎる気もするしね)。でも観たあと、なんとも心地いいのも事実なのだ。ダイアローグの洒落たムードも含め、原点に帰ったよう。

……で、クレジットで驚いた。なんと脚本はローレンス・ブロックとの共作!あのマット・スカダー・シリーズの、アメリカン・ハードボイルド小説の巨匠である。そっか、カーウァイ独自の、あの人間観察の原点はここにあったんだな。

Text:Milkman Saito

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

監督・脚本:ウォン・カーウァイ
共同脚本:ローレンス・ブロック
出演:ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ、デイヴィッド・ストラザーン、ナタリー・ポートマン、レイチェル・ワイズ
2007年フランス=香港
宣伝:ファントム・フィルム
配給:アスミック・エース
上映時間:1時間35分

http://www.blueberry-movie.com/

日比谷スカラ座ほか東宝洋画系にて公開中

©Block 2 PICTURES 2006