08 4/09 UPDATE
1973年4月のシカゴ。16歳で知能障害児施設を脱走して以来、雑役夫として食を繋いできた81歳の貧しい老人が息を引き取った。彼が40年間ひとりで暮らしたアパートの一室に足を踏み入れた大家は、床から天井まで埋め尽くされたゴミの山に仰天する。だがそれは……「非現実の王国で」と名付けられた、おそらく世界最長の小説の原稿と、数百枚に及ぶ摩訶不思議な挿絵だったのである!
……というのが、いわゆる「アウトサイダー・アート」=「アール・ブリュット」の代表的アーティストとして、ヘンリー・ダーガーが我々の前に屹立した瞬間であった。しかし映画にも出てくるが、名前からしてそもそも「ダーガー」と読むべきか「ダージャー」と読むべきか隣人の反応さえ分かれるような人物。そんな謎の人物の生涯を、映画は彼の草稿に基づいて(僕が想像していた以上の理性がある!)読み解いていく。この映画に見られるヘンリーは、まさしく真のアウトサイダー。自らの性向がアウトサイダー的であることを認め、結果的にアウトサイダーであることを自ら選んだ男として鮮烈な光輝を放つ。ま、孤独が彼を蝕んでいき、ハッピーとはとてもとても言えぬ生活であったかも知れないが、だがいったい、「現実」がどれほどのものだというのだ!!
話だけに聞いていた前述の「部屋」の映像にも圧倒されるが、実際に登場するヘンリーの隣人たちの証言もなかなか面白い(ま、単なるゴミとして廃棄しなかっただけでも審美眼はあったわけだ)。だがなんといってもぶったまげるのが、“ヴィヴィアン・ガールズ”と呼ばれる両性具有……というか少女なのにペニスがある美少女たちがアニメーションで動く、動く! いや実に、彼の作品世界の質感やパースペクティヴを守りつつ生気を与えるそのセンスに脱帽、監督のリスペクトの度合いが判るというものですね。戦う裸の少女たち(子供を奴隷とし虐待・虐殺するオトナ帝国に対し、キリスト教徒軍とともにレジスタンスする!)にかぶさるダイアローグが、名子役ダコタ・ファニングだってのも無駄に豪華でよろしい(笑)。
Text:Milkman Saito
『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』
監督・脚本・プロデューサー:ジェシカ・ユー
ナレーション:ダコタ・ファニング、ラリー・パイン
配給:トルネード・フィルム
2004/アメリカ
上映時間:82分
原題:IN THE REALMS OF THE UNREAL/IN THE REALMS OF THE UNREAL: THE MYSTERY OF HENRY DARGER
3月29日 シネマライズほか
全国ロードショー
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