08 4/10 UPDATE
昨年日本でも過去作が相次いで公開されたデンマーク映画界の異才スサンネ・ビア。これは彼女の初アメリカ映画だが、いやぁ呆れるほどスタンスが不変であるのに驚いてしまう。音楽以外のスタッフはアメリカ人 (撮影はイーストウッド映画常連のトム・スターンだ) なのに、完璧いつものドグマ的スタイルなのだ。
しかも本作、その昨年公開された『ある愛の風景』の姉妹篇…いや兄弟篇といった趣きがある。ある大切な人間が居なくなることで、癒しがたい喪失感に襲われる残された者たち。それが“未亡人”とふたりの男、という構図もそっくりだし、亡き者の記憶を共有する/分け合う者同士の接近と葛藤が描かれるのもまた同じだ。
理不尽な事件で夫を亡くしたオードリー(ハリー・ベリー)が、夫の大親友ジェリー(ベニシオ・デル・トロ)に同居を持ちかけた。ジェリーは元弁護士だが、なぜか今はヘロイン中毒。オードリーはそれゆえ彼を嫌っていたが、なぜ最期まで夫が彼との友情を断ち切らなかったのか知りたい思いもあるのだ。抱いていた誤解が解けていくうち、眠るときに夫が与えてくれた耳への愛撫を彼に求めるようにもなる。そのあたりの肉体的な反応が、驚きの超どアップで挟まれるのも効果的だ(特に目!)。
しかし築かれつつあった癒しあい理解しあうための関係性は、次第にバランスを失い壊れていく。そのプロセスも演技派ふたりの相乗効果もあって実に痛い。まさにビアが得意とする「クリシェのはぐらかし」の真骨頂。ビア作品は続々とハリウッド・リメイクが進められているというが、この濃密さはなかなか再現できないんじゃないかな(するつもりもないかも知れないけど)。
Text:Milkman Saito
『悲しみが乾くまで』
監督:スサンネ・ビア
脚本・製作総指揮:アラン・ローブ
製作:サム・メンデス
出演: ハル・ベリー、ベニチオ・デル・トロ、デヴィッド・ドゥカヴニー、オマー・ベンソン・ミラー、ジョン・キャロル・リンチ、アレクシス・リュウェリン、マイカ・ベリー、アリソン・ローマン
配給:角川映画、角川エンタテイメント
2007/アメリカ
上映時間:119分
原題:Things We Lost In The Fire
http://woman.excite.co.jp/cinema/kanashimi/
恵比寿ガーデンシネマ、
シネカノン有楽町一丁目他 公開中
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