08 5/02 UPDATE
この豪華キャストと邦題から、どんなサスペンスフルな陰謀劇がくりひろげられるのか期待される向きには、まぁお気の毒としかいいようがないですね。監督がロバート・レッドフォード、とくれば間違いなく地味な作品だという前例を踏まえてもこりゃまたおそろしく地味。果てしなく会話が続くだけのディスカッション・ドラマなのである。
しかしこれがたまらなく面白い。今のアメリカが置かれている状勢を多方向から分析し観客に問いを突きつけるタッチはリベラル派レッドフォードらしい鋭さだ。また脚本のマシュー・マイケル・カーナハンからすれば、中東とアメリカにおける関係性の泥沼をエンタテインメントとして描いて秀逸だった『キングダム/見えざる敵』(’07)の姉妹編という要素もあるだろう。
映画はある一日の、アメリカ国内2カ所とアフガニスタンの戦場をパラレルに描いていく。まず最初はワシントンD.C.。野心のカタマリのような若き共和党上院議員(トム・クルーズ)が、かつて自分を高く評価してくれたヴェテランTVジャーナリスト(メリル・ストリープ)をオフィスに呼ぶところからはじまる。対テロ戦争強硬派である上院議員は世論の後押しを渇望していた。彼はいままさに「新たな作戦」を決行しようとしていたのだ。
ほぼ同時刻、アフガンの戦場では、ふたりの志願兵が上院議員の作戦に配置されようとしている。ひとりはアフリカン・アメリカン。ひとりはヒスパニック。彼らはともに貧しい地域の出でありながらも大学に進学し、アメリカをより良く変えていきたいと共同研究発表するなどして理想に燃えていた大学生だ。そんな彼らは“テロリスト”の潜むアフガンの高地を先制攻撃し占領せんとする上院議員の作戦を遂行すべくヘリコプターに乗り込んだ……。
彼らが在学していたカリフォルニア大学では、歴史学の教授(レッドフォード)が、最近欠席の続いているある生徒を教授室に呼び出している。その生徒は優秀であるがゆえに、政治科学など今のアメリカでは「机上の空論」でしかないことに絶望しているのだ。いっぽう教授は、兵に志願してしまったふたりの恩師。彼らを高く評価し、「現在の社会状勢に参画することの重要性」を説きながらも、参戦の意思を押し止めることができなかったことを悔いていた……。
実はこの映画、原題を“Lions for Lambs”……「羊のために働くライオン」という。つまりは「勇敢な獅子たちが臆病者の羊どもに率いられている」のが今の戦争だということ。第一次大戦時の逸話をたとえとして語る教授は、ヴェトナム戦争に徴兵され、帰還してのち反戦運動に加わったという設定。しかしそこには演じるレッドフォードが過去現在を通じて抱いているであろう“政治参加”に対するジレンマもまた透けてみえるのが面白い。どこか全共闘世代のオヤジの、虚しい繰り言じみているというか(笑)。
だがいちばん素晴らしいのはトム・クルーズだ。『マグノリア』でのマッチョイズム教祖を想起させる、いや、もう完璧な「羊」っぷり。こういうの演りたかったんだねぇ、って感じ。そう本作はトムにとって、かつてチャップリンら俳優たちが「創造の自由」を求めて創設したユナイテッド・アーティスツの重役就任一作目なのである。
Text:Milkman Saito
『大いなる陰謀』
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:マシュー・マイケル・カーナハン
出演:ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズ、マイケル・ペーニャ、デレク・ルーク
配給:20世紀フォックス映画
2007/アメリカ
上映時間:1時間32分
原題:LIONS FOR LAMBS
http://movies.foxjapan.com/ooinaru/
2008年4月18日(金)より
日劇1他全国ロードショー
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