08 5/13 UPDATE
デリケートな心象描写、ガス・ヴァン・サント監督の映画の最大の魅力はそこにあると思う。“美少年”の揺れる心象風景を一定の距離をもって観察するように描いてゆく。作品に入り込めなければ退屈なまま終わってしまうのだが、そのテンポに同調したときは気持ちいいテンポでストーリーが進んでゆく。
ポートランド、スケーターが集まる“パラノイドパーク”を訪れた少年が不意に大きな事件に巻き込まれる…。実は要約してしまうと、おそらく2、3のセンテンスですんでしまうような事柄、それを巧みな時間軸の揺らぎとともにじっくりと描いていく。それは『エレファント』や『ラストデイズ』でもそうだったはず。
とんでもない事件を見つめる極力フラットな視線。その語り口は常に淡々とゆるやかで、判断の大部分は見る側に委ねられてしまう。果たしてエンディングの模範解答さえも…。そんなスクリーンと観客の距離感もまた独特に心地よい(これは好みにもよるだろうが)。
さらに今回は冒頭から美しい映像が目を惹き付ける。撮影に『恋する惑星』から『花様年華』までウォン・カー・ワァイ監督の撮影を手がけてきたクリストファー・ドイルを招き、印象的なスローモーションや35mmとスーパ-8を効果的に使い分けた映像美を極めたのだという。特にポイントで使われた逆光の光の捉え方が美しい。
主役はもちろんだが脇役を含めてやけに“リアル”なキャスティングは、今回も大規模な一般の若者からのオーディション(さらに今回はmyspaceも使って大々的に呼びかけたとか)の結果だという。
実は改めてガス・ヴァン・サントのことが気になってしょうがなくなったのは昨年公開された『パリ、ジュテーム』の中で彼が撮った短編を観てからである。硬質な映像で描いたパリの美少年讃歌(かねてより彼はゲイであるのを公言している)のような小品で、同時に彼のヌーヴェル・ヴァーグへの愛が表れているような気がした。さらに先頃DVD化された'85年のデビュー作『マラノーチェ』を改めて観ると、結局その対象と、その心象へ向きあう姿勢は何も変わってないように感じたのだ。
『パラノイド・パーク』では、ますます美しい映像を以て、美しい少年の横顔にクローズアップする。そこにはすべてを見通しながら、直接は何も語らないという、ユニークな監督の強い視線がある。
Text:Shoichi Kajino
『パラノイドパーク』
監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
撮影監督:クリストファー・ドイル、
レイン・キャシー・リー
出演:ゲイブ・ネヴァンス、
テイラー・モンセン、ジェイク・ミラー、
ダン・リュー
配給:東京テアトル ピックス
2007/アメリカ・フランス
上映時間:85分
原題:PARANOID PARK
©2007mk2
現在シネセゾン渋谷他にて公開中
以降、全国順次ロードショー