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『モンテーニュ通りのカフェ』

『モンテーニュ通りのカフェ』

『ブッシュ・ド・ノエル』のダニエル・トンプソンが送る、よどみなく流れるような演出が冴えわたる群像劇。

08 5/20 UPDATE

群像劇というのは難しい。てんでバラバラの人々がそれぞれの人生をそれぞれに生きつつ、一歩離れて全体を見渡したとき、ある世界観が観るものに提出されていなければいけない。それにはクライマックスに、すべてを収束させる何らかの“イヴェント”があれば判りやすいのだけれど、このタイプの傑作、ロバート・アルトマン『ナッシュビル』のようにはなかなかいかないものなんだよな。

でもこの映画は巧い。こんな設定を思いついただけでまずはお見事、ってもんだ。アルトマンのように混沌的・破壊的ではないけれど、エピソード群を整理し交錯させ、かつそれぞれにキチンとオチをつけ気持ちよくまとめあげる術に長けていて、さすが『ブッシュ・ド・ノエル』のダニエル・トンプソンだよなとため息が出る。

いちおう物語の中心点は邦題通り、パリ・モンテーニュ通りにある「カフェ・ド・テアトル」。田舎から出てきたジェシカ(セシル・ドゥ・フランス)は女性ギャルソン見習いとして運良く雇われることになる。この向かいにあるのは、劇場、ギャラリー、コンサートホールがひとつづきになった建物。3日後の夜には一斉に大きな催事の幕が開くのだ。劇場では、TVドラマで大人気ながらも、現状に不満たらたら不安でイライラな女優(ヴァレリー・ルメルシェ)の舞台初日が。ギャラリーでは、妻を亡くし息子とは疎遠になった老美術収集家(クロード・ブラッスール)の全コレクション放出オークションが。コンサートホールでは、全世界から引く手あまたながら、クラシック・スノッブのための演奏に嫌気がさし、マネジャーでもある妻とは離婚寸前のピアニスト(アルベール・デュポンテル)のベートーヴェン「皇帝」演奏会が。

つまりこの映画。人生経験は浅いながらも、だからこそフレッシュなジェシカを狂言廻しにして、人生の岐路に立ったベテラン・アーティスト三者三様の悲喜こもごもをじつに繊細に描き分けていくのだ。そのよどみなく流れるような演出の冴えに惚れ惚れ。もちろん現代フランス映画界きっての演技巧者が勢揃いしてのことでもあるのだが。

といえばもうひとり、本作が遺作となり、本作を捧げられている名女優シュザンヌ・フロンの存在がある。ジェシカをパリへと導いたおばあちゃん役として、実にエレガントな姿を見せているのにもう嬉し泣きですよ。

Text:Milkman Saito

『モンテーニュ通りのカフェ』

監督:ダニエル・トンプソン
脚本:ダニエル・トンプソン、
クリストファー・トンプソン
製作:クリスティーヌ・ゴジアン
撮影:ジャン=マルク・ファーブル
音楽:ニコラ・ピオヴァー二
出演:セシール・ド・フランス、
ヴァレリー・ルメルシエ、
アルベール・デュポンテル、
クロード・ブラッスール、
クリストファー・トンプソン、
ラウラ・モランテ、シュザンヌ、フロン
原題:Fauteuils d'Orchestre
2005/フランス
上映時間:106分
配給:ユーロスペース

©2005 Thelma Films - StudioCanal - TF1 Films Productions -Radis Films Production Visa d’exploitation n 112436 - Depot legal : 2005 -TOUS DROITS RESERVES

ユーロスペースにて公開中

http://www.montaignecafe-movie.jp/