08 5/30 UPDATE
たいていの映画には物語というものがあって、多くの人はそれが面白いかどうかで作品を判断するものだ。僕自身はどちらかといえば物語そのものにさほど重きを置かないほうなのだけれど、仕方なく四六時中物語に溺れてはいるわけで。......そんな輩にしてみれば、いったいこのハナシどこへ行くのか見当もつかぬ、まさに意外性のカタマリのような映画ってのはなかなかないもんである。
でも本作はちょっと凄い。上映時間160分!ってのに最初はビビるが、なんの、観はじめると時間を忘れちまう。とにかく尋常じゃなく狂っているのだ。
物語はひとりの女子中学生が、「出生率日本一」を誇る自分の村の秘密について、あるジャーナリストに手紙を書くところからはじまる。
14年前のある日、村に新聞記者・一八(田口トモロヲ)が左遷されてきました。"新聞記者の墓場"といわれるだけあり、酒浸りの支局長(佐野史郎)含め支局員約二名はやる気ゼロ。村長は放射性廃棄物処理施設を誘致しようとしているし、小学校の校長はロリコン、キリスト者くずれの宮司(若松武史)は超右翼。村一番の漁師(三上寛)は、本職はフォーク歌手だ!と船上で絶唱し、その娘はIQがあまりにも高すぎて皆から馬鹿だと思われています。川に停泊した船には元爆弾活動家と噂される男(石橋凌)が籠りきり、日夜何かを研究しているようです。
そんな村の憩いの場がスナック「天女」の美人ママ(月船さらら)。しかし彼女には夫殺しとカルト絡みの悪い噂があり、起死回生を狙う一八は独自調査をはじめたのでした......。
どこか浮世離れした僻村の、奇妙奇天烈で面妖な人間群像というと、たとえばガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」、あるいはそれを換骨奪胎した寺山修司の遺作『さらば箱舟』を思い出したりもするわけだが、確かに若松武史、三上寛、佐野史郎あたりは寺山絡みの人物であるわけだ。
なんでも監督・天願大介は若かりし頃、その『さらば箱舟』の美術の下っ端をやっていたとか。知らなかった。で、観直してみると確かに「美術協力 今村大介」の名が......そうなのだ。天願大介は巨匠・今村昌平の息子なのである。
それを知っても知らなくても、父・昌平の(なんだか忘れられた感もあるけど、おそらくは最高傑作)『神々の深き欲望』と対関係にあるのは明らか。ま、それはどうあれ、このお話がどうして「出生率日本一」の現代へと繋がっていくのか、その風呂敷の拡げ方畳みかたはお見事。「物語ることの楽しさ」をこれほど感じさせる映画は貴重である。
父譲りのおおらかなセックス讃歌にホラ話の爽快感、そして"LOVE&PEACE"なテロリズムをぶちかます稀有な怪作を見逃すなかれ。
Text:Milkman Saito
『世界で一番美しい夜』
監督・脚本・原作:天願大介
出演:田口トモロヲ、月船さらら、
市川春樹、松岡俊介、美知枝、斎藤歩、
江口のりこ、佐野史朗
2008/日本
上映時間:160分
配給:ファントム・フィルム
渋谷シネ・アミューズほかにて全国順次公開中