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『スピード・レーサー』

『スピード・レーサー』

ここまでアニメそのものになろうとした実写映画は空前絶後かも知れない。

08 7/09 UPDATE

もう観てから何カ月か経つのに今日もエンドレスで口ずさんでしまうのだ。そう、「マッハGoGo、マッハGoGo、マッハGoGoGo~」のあのサビだが、なんかね元気が湧くんだよ、名曲だよなぁまったく。

あの箇所に限っては記憶にある人も多いだろう。でも元ネタのアニメはというと「観たことない」「存在さえ知らない」って日本人が'08年現在大半を占めるはず。でも筆者はばっちり“世代”ですから。本放送が'67~'68年だから幼稚園のときか、あまりクルマに興味のないガキだったが、TV版「バットマン」のバットモービルとマッハ号のミニチュアだけは持っていた。だってカッコいいんだもん!

後の「科学忍者隊ガッチャマン」や「ヤッターマン」もそうだが、竜の子プロのアニメ・キャラは黙ってりゃ日本人と判らない。もちろんそれは計算づくで、半年遅れでアメリカでも「スピード・レーサー(ちなみにこれは主人公の名前! 日本版は三船剛(Go))として放送開始。そういや筆者とちょうど10万歳離れた帰国子女悪魔のデーモン小暮閣下が、日本製と知らずに向こうで観てたと言ってたな。元来モータリゼーションの国であり、モータースポーツ大好きな国民性にぴったりだったのと、以下は昔どこかで読んだ記事の受け売りになるけれど、ときはベトナム戦争とフラワーチルドレンの時代まっただ中、家族主義の崩壊を実感していたからこそ三船家……いやスピード家の強固なつながり(こんなに一家総出で働くヒーローって、アメリカじゃ確かに『Mr.インクレディブル』くらいかな)に郷愁を憶えたのかも知れない。

ともあれ、その後現在に至るまで(日本と違い)絶え間なく再放送、熱狂的ファン数知れず。映画化の話が立ち上がったのもずいぶん前で、監督にはタランティーノ(『パルプ・フィクション』ではエリック・ストルツにTシャツ着せてたし、テーマ曲はカラオケの定番だとか)やアルフォンソ・キュアロン、主演にはジョニー・デップの名も上がってたっけ。んで結局ウォシャウスキー兄弟に落ち着いたワケだが……。

これがもうさぁ(笑)「はいはい大好きなのはよぉぉく判りましたっ!」と、日本人であるこっちがこっ恥ずかしくなるくらいのリスペクトぶりなのである。ガキの偏愛一直線、なりふり構わぬ愛情が迸っている。

ま、超高速・極彩色のレースシーンはゲームふう……というかペプシのCMなどで有名なCGアーティスト、ロバート・エイブルを起用した初の本格CG導入映画『トロン』('82)っぽくもあって、鮮烈な光の筋を無数に引きながら爆走するさまはかなりの興奮もの。

しかしメインキャラは生き写し(スピード家の面々は判るが、わざわざ猿まで……)、マッハ号のデザインも剛(いやスピード君)や謎の覆面レーサーの衣装もそのまんま、あのテーマ曲もしょっぱなから鳴りまくり(エンドタイトルには声を上げて驚いた。そこまでやるか)。巨大な謀略に立ち向かうスパイ映画チックな物語(敵はレース界を牛耳る大富豪だ)も近いムード。おまけにほぼ全カット映像処理された画面は、あまり色数のない昔のTVアニメのように原色でキラキラしていて、遠近感も徹底的に無視。ここまで「アニメそのものになろうとした」実写映画は空前絶後かも知れない。こんなことなら邦題はずばり『マッハGoGoGo』、テーマはヒロミGoでカヴァー!……とかすればよかったにと思うが、まあよかろう。

アジア人として真田広之のアクションがないのが不満だが、韓国のピ(Rain)の大活躍には拍手を送ろう。日本人なのか韓国人なのかよく判らない役だけど(笑)。ちなみに明らかに日本名な彼の妹役は『トゥヤーの結婚』の余男(ユー・ナン)だ!

Text:Milkman Saito

『スピード・レーサー』

監督・脚本:ラリー・ウォシャウスキー、
アンディ・ウォシャウスキー
製作:ジョエル・シルバー、グラント・ヒル、ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー
撮影:デビッド・タッターサル
出演:エミール・ハーシュ、クリスティーナ・リッチ、マシュー・フォックス、スーザン・サランドン、ジョン・グッドマン、カーク・ガリー、ポーリー・リット、ロジャー・アラム、Rain、真田広之
原題:Speed Racer
製作国:2008年/アメリカ映画
上映時間:135分
配給:ワーナー・ブラザース映画

サロンパス ルーブル丸の内ほか
全国ロードショー中

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