08 7/15 UPDATE
けっきょく日本ではDVDリリースのみで終わってしまったが、そのあまりの傑作ぶりからマニア以外にもかなり知られるようになった一本のゾンビ・コメディがある。
その映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』('04)は、タイトルで察しがつくがジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』=『ドーン・オブ・ザ・デッド』を下敷きにしたイギリス映画だ。主人公ショーンがある朝目覚めると周りの住民が全員ゾンビ化。しかし、死んでもなお消費社会のシンボルたる巨大マートに集まってきたアメリカ人ゾンビに対し、ロンドンのゾンビはぞろぞろパブに集まってくる。……といって、昼間っからパブでいい大人が呑んでるのはいつもと変わらないし、街をフラフラと無気力に歩いてるのも常だから、非常事態にショーンはまったく気がつかない(笑)。この辛辣きわまる自虐的笑い! ……これぞ、単に元ネタをもじって笑いを取る凡百のコメディとは決定的に異なる、批評精神にあふれた真のパロディだといえよう。その証拠に作品は、次第にゾンビ映画としてみてもオリジナルな展開を見せはじめるのだ。
『ホットファズ ―俺たちゃスーパーポリスメン!―』は、この『ショーン~』の監督&脚本エドガー・ライトと、共同脚本&主演のサイモン・ペッグ(そして相棒役のニック・フロスト)が再結集した期待の作品ってことになる。
今回のネタは警察モノ。生粋のロンドンっ子でロンドン警察ぶっちぎりの検挙率を誇るスーパー警官ニコラス(ペッグ)。しかし同僚・上司に嫉妬され、「イギリス一安全」なド田舎の小村に転属させられてしまう。ちょっと難儀な事件といえば逃げた白鳥や万引き青年を追いかけること。未成年が夜な夜なパブで酒呑んでても寛容な村のユルさに初日からキレまくり。しかもコンビを組まされたのは、ハリウッド製刑事アクション大好きな警察署長のトロい息子(フロスト)だ。……しかししかしそののどかな村に、ある日を境にして不可解極まる連続惨死事件が発生!「どうせ偶然さ」で収めたがる同僚警官の声を後ろに、これは連続殺人だと確信したニコラスは独自に捜査しはじめるが……。
一匹狼デカものから、ブラッカイマー的お騒がせバディ・ムーヴィ、ハードで渋い捜査ミステリに、オカルトじみた『ウィッカーマン』的カルト・ホラーを足して(ニコラス・ケイジ主演のリメイクでも主役は刑事だったが、やはりここは'73年のオリジナルといきたい)、おまけにラストでは日本お得意の○獣映画まで、実に巧みにブレンドし予想を裏切り笑いに変える。しかもそこに前作同様、とことん映画フリーク的なジャンル・ムーヴィへの深いリスペクトが溢れているのは、やたらとキマりまくるテクニカルな編集、ラロ・シフリン・タッチで聴かせる音楽のレヴェルの高さを見ても瞭然だ。
それでもやっぱり根っこには、イギリスって国への毒っ気たっぷりの自虐がある。やっぱりタダ者じゃないぜ、こいつらっ!
Text:Milkman Saito
『ホット・ファズ』
監督:エドガー・ライト
脚本:エドガー・ライト、サイモン・ペッグ
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト
協力:スタジオ・カナル
製作:ワーキングタイトル・プロダクション
原題:HOTFUZZ
製作国:2007年/イギリス
上映時間:120分
配給:ギャガ・コミュニケーションズ powered by ヒューマックスシネマ
宣伝:ギャガ・コミュニケーションズ宣伝部×スキップ
提供:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
7月5日(土) 渋谷シネマGAGA!他全国順次、ホットにロードショー中
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