08 8/07 UPDATE
現在のアメリカでいちばんの暑苦しさを誇る怪優ジャック・ブラック。映画好きには『ハイ・フィデリティ』のマニアックなレコ屋店員に『スクール・オブ・ロック』の子供たちにロックを教えるニセ教師役(これを演じたあと「本当はロックなんてアカデミックな場で教えるものじゃない!」と本音も吐いてカッコよかったものだ)によってかなりのロック馬鹿と認知されてはいるだろう。
でも音楽好きにはひょっとして俳優としての彼を知るより先に、ベックやフー・ファイターズやパール・ジャムがファンを公言し、スパイク・ジョーンズがPVを手がけたお下劣ロック・ユニット「テネイシャスD」の片割れとして認知されていたのではないか。そもそも結成は94年ごろというから相当のキャリア、『ハイ・フィデリティ』にキャスティングされたのだって、脚本主演のジョン・キューザックがテネイシャスの大ファンだったからという。
というわけで今や俳優としてもマネーメイキングスターとなり、ようやくという感じで作られたのが、彼らの自作自演によるこの映画。いちおうバンド結成秘話なのだが、もちろん大ウソに決まってます。
JB(ジャック・ブラック)はファンダメンタリストの家庭で育ったがロック命の少年。しかしそんなの「地獄の音楽だ!」と怒りまくる父(ミート・ローフ!)にベルトで鞭打たれる日々。ある日ポスターのロックの神(ロニー・ジェイムズ・ディオ!)から「ハリウッドへ行け!」と啓示を受け、放浪の旅をはじめることとなる。
......ってイントロダクションがずっと怒濤のロック・オペラ。そのレヴェルもテンションもハンパじゃなく高くて驚くが、やがて成長したJBが超絶技巧のアコースティック・ギタリストKG(実際の相棒カイル・ガス。彼もやっぱり本業は俳優でメタボ率高し)とついに出会ってからは下ネタ度・オチなきボケ倒し度も上昇の一途。ロック・スターとして成功するには、悪魔の歯で作られた「運命のピック」が必要だと楽器屋のオヤジ(ベン・スティラー!)に吹きこまれ、欧州なまりの謎の男(テネイシャスのふたりにとっては劇団時代のボス、ティム・ロビンス!!)の助けを借りてロック博物館に侵入してからはもうハチャメチャ度倍増。クライマックスではとんでもない役のデイヴ・グロール(ニルヴァーナ、フー・ファイターズ)とロックンロールで対決するのだ!
まあ映画の成り立ちからして、あの『ブルース・ブラザース』を相当意識してるのはよく判る(カーチェイスなんてそっくりだ)。しかし、巨大なレヴュー映画であったあっちに比べるとミュージカル(というより本当にロック・オペラというにふさわしい)としてスジが整っていて、特別ゲストの大挙出演にも頼っちゃいない頼もしさがある。とにかく俳優としてもミュージシャンとしても、テネイシャスDの自信にあふれたバカ映画なのだっ!
Text:Milkman Saito
『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』
監督:リアム・リンチ
脚本:リアム・リンチ、ジャック・ブラック、カイル・ガス
製作総指揮:ベン・スティラー、ジョージア・カカンデス
製作:ジャック・ブラック、カイル・ガス、スチュアート・コーンフェルド
撮影:ロバート・ブリンクマン
音楽:ジョン・キング、アンドリュー・グロス
美術:マーティン・ホイスト
出演:ジャック・ブラック、カイル・ガス、J・R・リード、ロニー・ジェイムス・ディオ、ミート・ローフ、ベン・スティラー、ティム・ロビンス
上映時間:1時間33分
製作国:2006年/アメリカ映画
配給:プレシディオ
シネクイントほかにてロードショー中
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