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『言えない秘密』

『言えない秘密』

エモーショナルな空間を築き上げていくこの才気はホンモノの映画作家。

08 8/29 UPDATE

いまや中華圏トップクラスの才人として絶大な人気を誇るアーティスト、ジェイ・チョウ。歌手としても作曲家としても、そして俳優としても(日本を舞台にした大ヒット作『頭文字D』や、チャン・イーモウの『王妃の紋章』、最近では『カンフー・ダンク』など)確かに名実伴っているスゴさはある。ま、熱烈ファンでもない僕などは、なんとも間が抜けた顔だけどなぁと思わんこともないわけだが(笑)。

そんな彼が映画を初監督、しかも脚本・音楽・主演をこなしたのが『言えない秘密』。名だたる映画批評家、映画マニアたちをして「昨年の中国語映画屈指の傑作」と言わしめただけのことはある、これが嘘偽りなき傑作なのだ。

舞台は台湾のとある音楽学校。転校してきた主人公シャンルン(ジェイ・チョウ)は、卒業式の夜に取り壊されるという旧校舎から流れてくるピアノの旋律に導かれるようにして、謎めいた笑顔と仕草が魅力的な女の子シャオユー(グイ・ルンメイ)とボーイ・ミーツ・ガール。ふたりで自転車並べての下校、夕刻の川べりでアイス食べながらのデート、ぴったり息の合った踊りを見せるダンスパーティ。そのあまりにもな「青春」っぽさと、グイ・ルンメイの萌え萌えぶりはちょっと気恥ずかしくもあるけれど、台湾きっての名手リー・ピンビンのキャメラが捉える自然光の美しさとも相俟っておそろしく映画的なのだ。

しかし毎日家まで一緒に帰っているのに、ウチに入れてもくれず、ともに暮らす母に紹介してもくれないシャオユー。別のクラスメイトがシャンルンに想いを寄せているのを知らないわけでもないだろうに、その事実にさえ微妙な距離を置いているようにも見える(このあたりルンメイの出世作『藍色夏恋』のレスビアニズムをわざと観客に意識させるようにも見える)。......このあたりから映画はどこか、青春映画のクリシェを越えた奇妙な色を帯び始めるのだ。

そしてついに持病の喘息が悪化したからとシャオユーは学校に来なくなる......タイトルの「言えない秘密」というのは喘息のことだったのか?と誰もが思うだろう。しかしここから映画は、シャンルンの父親(『頭文字D』つながりのアンソニー・ウォン)も大きく関わる、とんでもない展開をしはじめるだ!

ここから先は知らないほうが楽しめるはずだが、ひとつ言えるのはジェイ・チョウが間違いなく大林宣彦の『時をかける少女』を観ているだろうということ。そんな物語の意外性以上に、音楽と音響を多層的に交錯させつつ、エモーショナルな空間を築き上げていくこの才気はホンモノの映画作家の匂いがする。インディペンデントや大史劇で盛り上がるのもいいけれど、やっぱこういうエンタテインメント系の若き傑物が出てこなくちゃね、アジア映画は!

Text:Milkman Saito

『言えない秘密』

監督・脚本・音楽:ジェイ・チョウ
出演:ジェイ・チョウ、グイ・ルンメイ、アンソニー・ウォン
制作国:台湾
上映時間:102分
配給:エイベックス・エンタテインメント

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