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『イントゥ・ザ・ワイルド』

『イントゥ・ザ・ワイルド』

主人公の童貞っぽい「へなちょこさ」への批判。
それがチクチク効いて痛オモシロい。

08 9/16 UPDATE

「青春」ってのはホントに難儀なものだ。

どこいらの本からの単なる知識とか、知ったかぶりした先輩からの洗脳とか、たいした論理的根拠もない"純な"思いとか、めったやたらな反抗心とか、そんなたわいもないモノだけで、なんでもかんでも噛みついたりゲバ棒ぶんまわして暴れたり威丈高にツッ張っちゃったり夜の校舎の窓ガラス割ってまわったり、無防備かつ一直線な行動に走ってしまう。

ああ恥ずかしい。思い出すのもみっともない。だけどやってきちゃったコトは隠しようがない。バカだったなオレって。あんなことしてなきゃこんなことしてなきゃもうちょっとマシな人生送れたものを。

でもさ。全然後悔なんてしてねぇぞ。アレがあったからこそ今のオレがいる。そう、ムチャこそ青春、そういう意味では今でもオレは青春だ!......ま、ちょっと分別ついちゃったけどさ。

......というのがつまりこの映画である。

1992年、真冬のアラスカ。"冬期閉鎖中"な土地の入り口でクルマを降り、遥かな雪原とへ歩きはじめるひとりの青年、そこにかぶさるフォーク・ソング。おお、70年代ニュー・シネマの匂いがのっけからぷんぷんするところがショーン・ペンらしいではないか。

元NASAの天才技師を父に持った主人公ジョン・クラカワー(エミール・ハーシュ)は1990年、アトランタの大学を卒業。さぞかし優秀な成績だったんだろうが、彼はきらめく未来と肉親の絆を振り捨て「存在の真理」を求める旅に出るのだ。映画はアラスカ原野での生活に挑むジョンと、それまでの2年間のアメリカ放浪の旅の過程を往還してみせる。

アラスカの原野に捨て置かれた廃バス(おそらくビートルズからの連想で"マジック・バス"と呼ばれる)を根城としての極寒の生活。そこに至る放浪の旅で出会った人、人、人のフラッシュバック......。それらのエピソードはとっても示唆があるけれど、それよりもっと面白いのは、ジョンが彼らと常に距離を置き、新しい価値観との出会いよりも自分が思い定めた最終地点(つまり誰もいない極寒のアラスカ)を意固地になって目指しつづけることだ。

アレクザンダー・スーパートランプ(超乞食王)と自称する彼は、豪快で魅力的な大農園主(ヴィンス・ヴォーン)に身を寄せる。しかしなんのことはない罪で主が逮捕されるとあっさりその地を去る。アウトサイダーたちのコミューンでは可愛い女の子と恋仲になるが、彼女が処女を捧げるといってくれるのに尻込みしてしまう。さらに養子にまでしようという老人(ハル・ホルブルック、名演)の誘いも振り捨て、結局単身アラスカへ。そして......。

本作、かなり有名な実話の映画化なのだが、ショーン・ペンの位置ははっきりしている。こりゃもう、ジョンの「若さ」......つっか、童貞っぽいへなちょこさへの共感というよりはっきり批判。それがチクチク効いて痛オモシロいわけ。最大のクライマックスは、「他の生命をきちんといただく」経験をしようとして大きなヘラジカを射殺したものの、薫製にする前にウジをたからせて世界の終わりのように絶望してしまうシーンであるからして。

この映画でショーン・ペンは、若さゆえのナイーヴさをかなり執拗に嗤っている。と同時に、嘲笑を交えつつも愛おしさが溢れているのがはっきり観てとれ素晴らしいのだ。

いってみればこれは、他人にさんざ迷惑かけながらも"自分探し"をさんざやりまくっちゃったヤツにしか撮れないもの。う〜ん、ショーン・ペンもオトナになったんだね(笑)。

Text:Milkman Saito

『イントゥ・ザ・ワイルド』

監督・脚本: ショーン・ペン
製作総指揮: デビッド・ブロッカー、フランク・ヒルデブランド、ジョン・J・ケリー
製作: アート・リンソン、ショーン・ペン、ウィリアム・ポーラッド
原作: ジョン・クラカワー
撮影: エリック・ゴーティエ
音楽: マイケル・ブルック、カキ・キング、エディ―・ベダー
美術: デレク・R・ヒル
出演: エミール・ハーシュ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート、ジェナ・マローン、キャサリーン・キーナー、ビンス・ボーン、クリステン・スチュワート、ハル・ホルブルック
原作: Into The Wild
製作国: 2007年アメリカ映画
上映時間: 2時間20分
配給: スタイルジャム

2008年9月6日よりシャンテシネ、テアトルタイムズスクエア、恵比寿ガーデンシネマほか全国にて公開

http://intothewild.jp/

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