08 10/07 UPDATE
いわゆる"映画愛"ってやつに満ちみちた映画人ってのはさほど珍しくない。いまやほとんどの映画監督は映画が好きで仕方ないから撮ってるやつがほとんどであるからして。でもその"映画愛"とは、いち観客が作り手に回ったたぐいのものがほとんどだ。その場合たいていは、自分が愛する特定の作品への「オマージュ」というかたちを取る。
しかしミシェル・ゴンドリーの場合は少し違う。彼は「観る」というより「作る」ほう......家内制手工業的映画というか、反ブロックバスター映画というか、ハンドメイド・フィルムに常にこだわるのだ。
PV監督時代からハリボテっぽい、いかにも手作りなテイストが好きだった彼だが、『恋愛睡眠のすすめ』('05)の"とってもチープ、でも手間と愛情はいっぱい"なアニメ部分は真骨頂。8ミリでアニメや特撮やってた者なら「そうそう、こんな感覚!」って映画小僧の魂が湧き出ている。「ホンモノに見えなくてもいい、似てなくても全然構わない、フィルムの中にどこにもない世界を創り上げようとする、そのイマジネーションこそが大事なんだ!」という、いわば。それを堂々と、物語上の核となる営為としてやっちゃったのが本作なのである。
なんだかワケ判んない邦題はとりあえず置いといて(笑)、原題"Be Kind Rewind"は「お手数ですがご返却の際、テープを巻き戻していただけますようお願いします」ってこと。そう、この感動的なドタバタ劇の舞台はニュージャージーの、いまだにDVDも置いていないVHSのみのビデオ店だ。しかも店長(ダニー・グローヴァー)は、役所から区画整理事業のため立ち退きを迫られて、何をトチ狂ったのか謎のリサーチ旅行に出てしまった(ちなみに彼が視察?する隣町のDVDショップ店長役は、あの、キッド・クレオール!!)。
しかし留守を任された店員のマイク(モス・デフ)を見舞ったのは大災難。迷惑な常連客ジェリー(ジャック・ブラック)が「身体に帯びた強烈な磁気により、店のVHSをすべてオシャカにしてしまった事件」だった!...そこでふたりは消えた映画を自分たちの手で"リメイク"するのである(笑)。
たとえば『ゴーストバスターズ』は、緑のビニール袋かぶって中から懐中電灯で光らせた"ゴースト"相手に、全身アルミホイール姿の幽霊掃討人が、パーティモールを光線がわりに図書館内で大暴れ。たとえば『ロボコップ』は、明らかに廃材置き場から拝借してきたような台所用品やらバイクのパーツやらを全身に装着したロボット刑事が戦闘ごっこ。
そんなのが何本も出てくるのだが、「この映画はスウェーディド(スウェーデンから輸入してる)」なんてふたりの言い訳が通じるはずもないチープさは失笑の極み! でもその手作り感覚とイイ加減さと、(結果的には)ハリウッド映画への反骨精神が街じゅうの人々の心を掴み、ついにはリメイクではないオリジナルな題材......「この街で生まれたのかも知れないジャズの巨人、ファッツ・ウォーラーの物語」を街びとこぞって映画にしてしまうのだ。
いま、その土地土地に根付いた映画運動がいろんなところで行われはじめている。観たり、語ったり、創ったりすることで、生活に密着した映画のありかたを探ろうとする運動だ。その本質にこの映画はおそろしく近づいているのではないか。おお、これぞコミュニティ・シネマの理想じゃないですか!
Text:Milkman Saito
『僕らのミライへ逆回転』
監督/脚本: ミシェル・ゴンドリー
撮影監督: エレン・クラス
音楽: ジャン=ミシェル・ベルナール
プロダクション・デザイン: ダン・リー
出演: ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー・グローヴァー、ミア・ファロー、メロニー・ディアス
原題: Be Kind Rewind
製作国: 2008年/アメリカ
上映時間: 101分
配給: 東北新社
10月11日(土)シネマライズ、シャンテ シネ、新宿バルト9ほか全国ロードショー