08 11/10 UPDATE
映画史上、最も重要なアニメーション作家といえばいったい誰か。
そう訊ねられたとしたら、僕は即座にこう答える。「ノーマン・マクラレン!」と。
マクラレンはスコットランドに生まれ、イギリスで活動を始め、1939年カナダに設立された国立映画製作庁(NFBC)に招かれて、アニメーションというにとどまらず、映像表現のさまざまな可能性をどんな実験映画作家よりも貪欲に探しつづけた。でもその作品は決して難解ではなく、むしろ技法が前衛的になればなるほど、子供まで(...というか子供こそが!)楽しんで観ることのできる平易さと楽しさと美しさを獲得しているのだ。彼は言う。「アニメーションは動く絵の芸術ではなく、絵の動きの芸術だ」。まさにマクラレンこそ映像の革新者、真のアヴァンギャルド・アーティストといえるだろう。
今回上映されるのは'06年カンヌ映画祭での回顧プログラムによるもの。さこに見られるさまざまなチャレンジとはどういうものであったか、ちょっと眺めてみよう。
1.「ダイレクト・ペイント」......ひとコマひとコマ少しずつ変化するキャラクターや図像を、直接透明フィルムにペンで描いていく、マクラレンのトレードマークともいえる手法。『星とストライプ』('40)『郵便はお早めに』('41)、カナダ民謡に乗せてめんどりが踊る『ヘン・ホップ』('42)。
2.「ひっかきアニメ」......黒いフィルムに直接カッターや針で傷をつけてキャラクターや図像を描いていく(その傷はカラーインクで着色される)。即興による室内楽にシンクロして具象・抽象の図形がめまぐるしく舞い踊っては明滅する『線と色の即興詩』('55)。
3.透明フィルムを一本の細長ぁぁいキャンバスに見立て、コマの境を無視してさまざまな方法で画を描いていく手法。オスカー・ピーターソンのジャズ・ピアノに合わせて、カラフルな抽象パターンがスピーディかつグルーヴィに変化していく『色彩幻想 -過去のつまらぬ気がかり』('49)が圧倒的。この手法をストイックなまでに推し進めたものが、あらかじめ綿密に計算されたシートに則って刻まれたヨコ線群が、くっついたり離れたり、あるいは円筒状に見えたりと三次元的錯覚をもたらす『水平線』('62)だ。
4.「パステル・メソッド」......黒いボードにパステルやチョークで絵を描きくわえ変化させてはコマ撮りしていく。『灰色めんどり』('47)はフランス民謡に合わせて、一羽のめんどりと雲や星の背景が一体となってメタモルフォーゼしていく。
5.「ピクシレーション」......いわば人間を人形に見立ててアニメートした、ライヴ・アクションによるアニメーション。代表作はなんといっても『隣人』('52)だ。芝生の上に並んで建つ2軒の家が、まんなかの土地に咲いた一輪のデイジーをめぐって争いをはじめる。反戦のメッセージが沸き立っているが、終始生身の人間によるピョコピョコした戯画的な動きで語られて可笑しいのなんの。『いたずら椅子』('57)は自分の意志で動く椅子と、彼?にからかわれる青年とをコミカルに描いたもの。
6.特撮ダンス映画......実際のダンスをキャメラで撮り、それを加工した作品。『パ・ド・ドゥ』('67)でバレエ・ダンサーたちは、連続する動きをオプティカル処理で多重露光され、あたかも羽根を拡げるクジャクのように変容していく。
7.「音」のアニメーション......簡単には説明できないけど、光学録音フィルムのサウンドトラック部分さえもアニメーションしてしまったもの。『シンクロミー』('71)を観れば、その奇想がなんとなく理解できるかも(笑)。
ともかくマクラレンの多様なテクスチュアが一望できるこのセレクションを愉しんでいただきたい。ジャンルとしてのアニメーションのみならず、エンタテインメント映画/芸術映画/抽象映画/実験映画...つまりは映画そのものの無限の可能性を思い知らされるまったくもって稀有な経験になるはずだ。
Text:milkman saito
『ノーマン・マクラレン作品集
カンヌ国際映画祭セレクション』
上映時間:計87分(計13本)
提供:ジェネオン・エンタテインメント
配給:ダゲレオ出版
後援:カナダ大使館
シアター・イメージフォーラムにて
11月21日(金)までのレイトショー上映
連日21:00~
http://www.imageforum.co.jp/mclaren/
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