08 11/12 UPDATE
たとえ原作を読んでいなくても、もう誰でも知ってるんじゃないだろうかとさえ思える(とりわけ関西人は僕も含め、毎日浴びるようにお笑いに接してるしね) 麒麟・田村の「小説よりも奇なり」なストーリー。すでに同じフジテレビ系資本でテレフィーチャー化もされたわけで、今更映画に?というのもないではないが、そこは古厩智之。少人数コミュニティ内の関係性をいささか客観的なキャメラ・アイで描くのが巧い彼ならばこその視点が、ここにははっきり活かされているのだ。
あの田村役が小池徹平であることの美醜イメージの差異などどうでもよろしい。それは映画的リアリズムの魔術でなんの違和感もなく受け入れられるのだから。ここは今年、すでに『奈緒子』という駅伝映画の傑作をモノしている古厩のアプローチをこそ楽しむべきでしょう。
例のまきふん公園ホームレス生活だって、田村自ら自嘲するように「あんなん、ただのキャンプやんけ」と"本物の人たち"に言われたというひと夏のできごとである。でもその時期の体験というのは、その後の生活を左右するようなものだというのもまた事実。原作にある、ちょっとした記述をできるだけ深める作業がきちんとなされているのが素晴らしい。「家族解散」直後の、最初はちょっとワクワク、やがてそれどころじゃなくなって(それも数日で困窮を迎えるのだから)...という、いかにも中学生的な感覚も、ばっちり悲喜劇なタッチで描かれて笑えるだろう。大阪人情モノの伝統にぴったり重なる、知り合いのおばさんおじさん(田中裕子、宇崎竜童)の親身さもさほどベタつかずに描かれて、だからこそじ〜んとさせてくれる。
だが終盤、映画はかなりシリアスに転換する。それはこのタイトル「ホームレス」という語への執着であり、ただ周りの善意だけでは心の空白は埋められないのだという虚無感でもある。具体的にこの家族は、母を失ってからすでにもう「ホームレス」だったのだという読み替えに至るのだが、これが実に古厩映画らしくていいんですねぇ。原作では比較的あっさり描かれている主人公の家出に至るプロセスをクローズアップ。牛丼屋における主人公とお兄ちゃん(キングコング西野、好演)との定点長回しは白眉といっていいんじゃないか。
それに加えて池脇千鶴演じるお姉ちゃんがまた絶品なのだ。米つぶを、長ぁぁぁぁぁぁく噛みしめた果てに浮き上がる"味の向こう側"......それを発見したときのエクスタシーの表情。事故で壊れたスクーターをそのまま乗り回し、中学生たちに「10キロ女」と畏れられた謎の人物の正体をあらわにしたときの無邪気な笑み......。はっきりとは表に顕われないものの、完全にどこかが「壊れて」いることを匂わせて戦慄させるのですね。
Text:Milkman Saito
『ホームレス中学生』
監督:古厩智之
脚本:後藤法子、古厩智行
原作:田村裕『ホームレス中学生』(ワニブックス刊)
製作:©2008「ホームレス中学生」製作委員会
出演:小池徹平、西野亮廣、池脇千鶴、古手川祐子、イッセー尾形、宇崎竜童、黒谷友香、いしだあゆみ、田中裕子
製作国:2008年/日本
上映時間:1時間56分
配給:東宝
全国東宝系にて公開中
©2008「ホームレス中学生」製作委員会