08 11/13 UPDATE
まあ昔から言えることだけど、ユニークな映画的才能を持った作家というのはホラーやスリラーのジャンルから頭角を現してくることが多い。たとえば今もなおカルト的な人気を集めるジョン・カーペンターの本格的な進撃も、1978年に作った『ハロウィン』でスラッシャー映画の歴史を塗り替えてからだった。
それから30年(というか、アメリカ公開は去年のハロウィン・シーズンだったが)、その記念碑的作品をあのロブ・ゾンビがリメイクした。
ロブ・ゾンビ、といえばメタル/ハード・ロックに詳しい人なら重々ご存知のミュージシャンだが、ここ近年はずっぽり映画にハマりっぱなし。それどころか、ホラー・SFへの並々ならぬ知識とその映像センスに、タランティーノはじめ大物クリエイターも絶賛の嵐だ。僕も、彼がぶっ放す容赦なき恐怖と爆笑の地獄絵図には心酔しているひとりであります。
ところで『ハロウィン』といえば、ホッケーマスクかぶった『13日の金曜日』のジェイソン、顔面焼けただれて長ぁぁい爪の『エルム街の悪夢』のフレディといったホラー界のスター・キャラの元祖......無表情なマスクかぶってひたすら襲いかかるマイケル・マイヤーズである。ロブ・ゾンビはカーペンターのオリジナルをただなぞるのではなく、このマイケル・マイヤーズという不死同然の完膚無き殺人者がどうやって誕生したのかを執拗にまず描く。
まさにホワイト・トラッシュそのものな崩壊家庭。アメリカにはいっぱいありそうな、ある意味モノ凄くリアルな描写のなか、内向的に過ぎる少年マイケルは深く静かに異常をきたしていく。やがて彼は強制的に施設に入れられ、ルーミス医師のカウンセリングを受ける。毎日受ける。延々と受ける。しかし、それで状況は(もちろん)好転などしないのだ。そして17年後、少年は閉じ込められたまま......おそろしく巨大な体躯と不死身の耐久力と病んだ心を持つ怪物に成長していた!
そこからは少なくとも物語だけはオリジナルに近いのだけど、いやもう観た感触はまったく別の映画。明暗メリハリの効いたヴィジュアル、思い切りの良すぎる(つか、この暴力度はちょっと凄まじい)スラッシュ演出、とハードコアなホラー・ファン驚喜の演出スタイルももちろんいい。さらにはスペシャルすぎてマニアにしか判らないゲスト出演者のえげつなさ! 『ゾンビ』のケン・フォリーに『ハウリング』のディー・ウォーレスに『ハウリング2』のシヴィル・ダニング。巨悪イメージのラテンアメリカ俳優ダニー・トレホが"いい役"やれば、どんな映画に出てもその異貌が目につくウド・キアやクリント・ハワードやウィリアム・フォーサイスやリチャード・リンチやブラッド・ダーリフがちょっとだけだけど一応台詞つきで画面に現れたりと、ほとんどB級映画マニア度クイズのような様相を示す。本作のロブ・ゾンビはほとんど、オリジナル版出現以降のホラー・ジャンルの成熟を背負ってみせようとしているようだ。まるで「ロブ・ゾンビの映画史」 (笑)。
とりわけ興味深いのは、こうした恐怖の原点を『時計じかけのオレンジ』に求めていること。"絶対的な殺人者"たるマイケル・マイヤーズを"分析"し"矯正"しようとし、結局それをネタにベストセラー本を書いたりと、まるでチャールズ・マンソン事件の検事みたいに俗臭芬々としたルーミス博士を演じるのは......なんとマルコム・マクダウェル。そう、『時計じかけ〜』で白マスクつけ、なんの躊躇もなくいわれなき暴力をふるいまくり、あげくは官権の手で強制的に「改心」させられた(?)アレックスその人なのであるっ!
Text:Milkman Saito
『ハロウィン』
脚本・監督・プロデューサー:ロブ・ゾンビ
出演:マルコム・マクダウェル、ブラッド・ドゥーリフ、シェリ・ムーン・ゾンビ、ウィリアム・フォーサイス
原題:HALLOWEEN
製作国:2007年/アメリカ映画
上映時間:1時間49分
配給:ザナドゥー
R-15
全国大ヒット上映中
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