09 1/13 UPDATE
やったあ。待ってましたよヘルボーイ。
処女作『クロノス』以来ずっと、僕にとってギリェルモ・デル・トロはもっとも信頼できるに足るファンタジー作家であり続けている。自他ともに認める「オタク」である彼の巨躯の内には、映画・コミック・アニメはもちろんのこと、神話学・文学・美学・記号学・歴史学・等々、広範囲かつ雑多な知識がこれでもかと詰めこまれているようだが、その溜めこんだものを醸成し、変成し、彼好みの象徴性に満ちた"現実"を生み出す術を知っている。そこが単なる「オタク監督」たちと一線を画するところだ。なによりデル・トロは「ファンタジー」というジャンルがいったいどういうものであるのかを熟知した,数少ない知性である。それはスペイン内戦時を舞台に幻想と現実が斬り結ぶ『デビルズ・バックボーン』『パンズ・ラビリンス』という姉妹作を観れば一目瞭然だろう。
しかし彼のオタク的稚気と幻視者的知性がもっともよくバランスのとれた作品となれば、僕はこの『ヘルボーイ』シリーズを挙げたい。マイク・ミニョーラの原作コミックも相当マニアック(かつグラフィック)なものだが、彼はそれをより自分の趣味に近づけ、まさにデル・トロ・ワールドとしか言いようのないものに仕立てあげているのだ。
二作目となる本作のサブタイトルにある「ゴールデン・アーミー」とは、太古の昔、地球支配を目論んだ人間たちを殲滅するため、妖精エルフ国のバロル王がゴブリンの鍛治師に作らせた鋼鉄の兵士集団。それは壊れても壊れても自動的に復元する最強兵器で、あまりの破壊力を恐れて人間とエルフは休戦協定を締結したのだった。
それから幾年月経った現代。バロル王のハネっ返り息子ヌアダ王子は父の温厚なやり方に反発。"高慢で心に穴の空いた"人間どもに牛耳られ、大地を破壊された地球をエルフ族へと取り戻すべく、いかにも急進派的な過激なふるまいでもって非情にも父を刺殺する。しかし、兄に同調しない双子の妹ヌアラ王女はそのとたん姿をくらましてしまった。鋼鉄兵団を起動するに必要な王冠のパーツを持つ彼女をヌアダ王子は追う......。
ま、さまざまなファンタジーが乱立するなか、明らかにケルト神話を想起させる典型的なストーリー自体に新しさはあまり感じられないかも。しかしこれは「ヘルボーイ」なのだ。とりわけブルックリン橋の下で人間世界とシームレスに繋がっているエキゾティックなトロルの市場など、クラクラするほど多種多彩なクリーチャーたちが画面いっぱいにウロチョロしてるヴィジュアル的満足感だけでなく、とても一度観ただけでは解読しきれないほどのシンボリックな情報が詰まっているのがイイのよね。
さらに楽しいのが超常現象捜査防衛局(BPRD)のキャラクターたち。葉巻とビールとチョコバーと猫を愛でる、地獄から来た真っ赤な大男ヘルボーイは、恋人である念動発火能力者リズとBPRD内でもはや同棲状態。恋人関係も新たな展開を迎える (なんだか3作目は大変なことになりそう)とあって、そちらも興味津々だが、むしろ今回クローズアップされるのは水棲人の相棒エイブなのだ! 半魚人そのものな外見ながらジェントルで知性派の彼は、なんとヌアラ王女にひと目惚れし、テニスンの詩集片手に切ない恋に身悶えるわけ。それぞれの恋に悩むヘルボーイとエイブが、それぞれの想いを託して歌うのは、バリー・マニロウの名曲"Can't Smile Without You"。その微妙にベタな選曲が素敵じゃないですか!
さらにさらに大爆笑モノの新キャラも登場。BPRDの新しいボスとして赴任してきたドイツ人ヨハン・クラウスがそれなんだけど......いやもう、こんな脱力キャラ、よくも考えついたものだとほとほと呆れ返るのみ(ちなみにナチの異空間実験によって地獄から召喚されたヘルボーイはドイツ人が大嫌いである)。
もちろんデル・トロ映画に付きもののカラクリ愛、自動人形愛も炸裂。ヘルボーイVSヌアダ王子の巨大歯車上での死闘はまさに白眉。それに日本の観客としては、人間に滅ぼされた森の精霊の最後の生き残りとして、あの宮崎駿映画のあのキャラクター(のそっくりさん)が、そっくりそのままの文明論的役割を担ってマンハッタンを破壊してくれるところが嬉しいじゃないの!......そう、デル・トロは宮崎駿の信奉者としても有名なんですよね。
Text:Milkman Saito
『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』
脚本・監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ロン・パールマン、セルマ・ブレア、ダグ・ジョーンズ、ルーク・ゴス、ジェフリー・タンバー、ジョン・ハート、ジョン・アレクサンダー、アンナ・ウォルトン
原題:HellboyⅡ: The Golden Army
製作国:2008年アメリカ映画
上映時間:1時間59分
配給:東宝東和
全国大ヒット上映中
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