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日常的なアイテムでいちばん恐怖の感情につながるものといったとき、ベスト1、2を争うのが「鏡」であることに同意してくれないヒトは少ないだろう。ふだんの生活でもふと気を抜いたりしたとき、鏡の中に映った影にビビることってよくあるものね。で、これはその「鏡」をモチーフにしたホラーなんだが、いやぁハンパなく怖い。鏡を恐怖の対象へ置き換える作業が徹底されていて、だんだん鏡が画面に映りこむこと自体がオソロしくなってくるもんなあ。
しかし例えば日本的な余韻嫋々といった恐怖とは正反対の作品なのだ。のっけから異様なまでのハイテンション。観客にも正体が判らぬ「何か」から逃げ惑う男を追いつめていく恐怖描写も容赦がない。躊躇のない(景気がいいといってもいい)血ノリ撒き散らしに「ああ、これはアレクサンドル・アジャの映画だもんな」とこちらも開き直っちまうわけだな。
なんせアジャがブレイクした作品のタイトルからして『ハイテンション』('03)である。疾走するスピード感と景気のいいスプラッタ描写でフランスからアメリカに招聘されてからも勢いは衰えないが(なんせ彼は'78年生まれだ)、本作も息の合ったスタッフで周りを固めたうえ、当代きっての特殊メイク工房「グレゴリー・ニコテロ&ハワード・バーガー」のやりたい放題なスプラッタ・メイクと結託。観るものをギリギリのところまで追いつめていくサディスティックな暴走ぶりに改めて惚れぼれ、である。アンビエントなノイズを潜在させたサウンド・デザインに、アルベニスの「アストゥリアス」をアレンジしたテーマ曲も効果的だ(音楽担当は『パンズ・ラビリンス』のハビエル・ナバレテ)。
舞台はマンハッタンに建つ巨大なデパート。といっても5年前に大火災に遭ってから放置状態、焼け焦げたまま閉鎖されているのだ。ここに新しく夜警として雇われたのが、同僚を誤射して処分された元ニューヨーク市警の刑事ベン(キーファー・サザーランド)。黒く朽ち果てたフロアには巨大な鏡が前面に張られているが、何故かそれのみ今もなお輝いているのが不気味だ。ベンはそこに、大火災の犠牲者のものだろうか、無数の手形が消えずに残っているのを見つける。そしてある夜、鏡に映った自分が燃え上がるあまりにもリアルな幻覚を見、断末魔のごとき女の叫び声を聴くのだった。鏡に宿った邪悪なものが甦ったのだろうか、ベンの家族までも「その何物か」に狙われることになる......。
実はこの映画、オリジナルは韓国映画だ。'03年に作られた『Mirror 鏡の中』がそれ。日本では東京フィルメックスのコンペティションで上映されたように、才気走った感さえあるなかなかに硬質な佳品であったが、しっかし、こうなりゃもはやまったくの別モノ。基本設定といくつかのヴィジュアル・イメージ、そして"衝撃のラストシーン"以外なんの共通点もないといっていいほどだ。『リング』はだしの"呪い"の謎解きもよくぞここまで改変したといえるほどヒネリが効いていて、しかもホラーとしての面白さは数倍上だから何も文句ありません。しかもクライマックスは......いやもう相当に馬鹿馬鹿しいので怒らないように(笑)。ま、ホラーファンは狂喜するに違いありませんがね。
Text:Milkman Saito
『ミラーズ』
監督:アレクサンドル・アジャ
脚本:アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルバスール
出演:キーファー・サザーランド、ポーラ・パットン、エイミー・スマート
原題:Mirrors
製作国:2008年アメリカ映画
上映時間:111分
配給:20世紀フォックス映画
R-15
全国大ヒット上映中
http://movies.foxjapan.com/mirrors/
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