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この邦題から派手な潜入捜査モノを当てにするとあんまり期待は満たされないかも。なんせ冒頭から警察官の日常をリアルに捉えたモノクロ写真の連続だ。容疑者を壁に向かって立たせホールドアップさせる警官。抵抗する犯人を何人もで押さえつける警官。デスクワークする警官。押収された証拠品。保管所の死体を検分する捜査官......(なんとも渋い)。その中の一枚として映るのが、警察官の胸のワッペンのクローズアップだ。そこにはドクロのシンボルと"WE OWN THE NIGHT"の言葉。「夜はわれらのもの」とはずいぶん気負ってるが、なんでもこれは80年代のNY市警犯罪捜査感のスローガンだったらしい。
というわけで舞台は1988年のニューヨーク。主人公はロシア系アメリカ人の兄弟だ。父バート(ロバート・デュヴァル)は警視官、兄ジョゼフ(マーク・ウォルバーグ)も昇進が決まった警官だ。その祝いのパーティにこっそり顔を見せたのは、一家のはぐれ者となりロシアン・マフィアの経営するナイトクラブのマネジャーとなっている弟(ホアキン・フェニックス)。彼は姓を母方のアメリカ名に変え、今はボブ・グリーンと名乗っていた。いつも一緒にパーティライフを送る恋人はプエルトリカンだし(エヴァ・メンデス。ファーストシーンから黒ラメ下着でエロエロ)、ロシア系であること、警官一家の出であることは組織の誰も知らない。
だがその組織は麻薬捜査班のターゲットとなっていた。兄と父はボブに組織の内情を探ってくれと要請するが、家業を嫌う彼が唯々諾々と従うわけもなかった。さらに兄は何も知らせずナイトクラブを強制捜査。弟も留置され、ことさら兄弟の確執は深まっていく。......しかしその晩、兄はマフィアに撃たれて瀕死状態に。しかも組織はボブを麻薬の売人に勧誘、彼が一族とも知らずに次の標的は父バートだと明かされたボブは、盗聴器を身につけ麻薬工場へと潜入する......。
あまりストーリーなんてものは明かさぬほうがいいのだけれど、話が展開していくにつれ、これが警察モノというより「ある稼業の"血"に動かされる一家の物語」なのだということが明らかになってくる。となると思いつくのがフランシス・フォード・コッポラの『ゴッドファーザー』。あちらはマフィア側のハナシではあるものの、「ボブ・グリーン=マイケル・コルレオーネ」と置き換えれば、監督ジェイムズ・グレイの趣味嗜好が見えてくるというものだ。
グレイは処女作『リトル・オデッサ』('94)以来、自らの出自であるニューヨークのロシア人移民社会にこだわりつづけている人物。アメリカ社会の中で彼が抱くジレンマは、実質的主役であるボブ・グリーンの造形にかなり投影されているのかも知れない(まるでロシアらしさを感じさせない名前も含めて)。
それに本作、キャメラが極上(マイク・ミルズの『サムサッカー』も撮ったホアキン・バカ=アセイ)。ノワール風味の夜間シーンには風格さえ漂うし、豪雨の中の激しいカーチェイスはそれだけで本作を観る価値あり、って画期的なものだろう。さらにクライマックス、葦原での追跡劇も縦横の構図のコンポジションで魅せてくれます。
あ、そういえばクラブのシーン。80年代の物語であることを強調するようにパフォーマンスを見せるのは、「キッド・クレオール&ココナッツ」の名物男、コーティ・ムンディ! もちろんストック映像じゃない。現役である彼自身による当時の再現であります。
Text:Milkman Saito
『アンダーカヴァー』
監督・脚本:ジェームス・グレイ
出演:ホアキン・フェニックス、マーク・ウォール
バーグ、ロバート・デュバル、エバ・メンデス
原題:We Own the Night
製作国:2007年アメリカ映画
上映時間:1時間57分
配給:ムービーアイ
全国大ヒット上映中
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