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『バーン・アフター・リーディング』

『バーン・アフター・リーディング』

無意味な行為の連鎖が魅せる
どうしようもない茶番劇。

09 5/07 UPDATE

世界は空虚でアホらしい。

これをただひたすら、ヤマもなくオチもなく意味もなく、際限なく繰り返しているのがコーエン兄弟の映画である......ように僕には思える。

ひょっとするとマーク・トゥエインらにまで遡れるのかも知れない、兄弟のいささか厭世的なアメリカ式ナンセンスを楽しめるヒトはいい。前作『ノーカントリー』はアカデミー賞まで獲っちゃったし、あのとりとめのない、ギャグだかどうかも判らないギャグに笑えるヒトは幸せだ。

でも僕にはまったくその面白さが判らないのですね。いや、アタマでは判らんでもないが、どんな質のコメディであろうと生理的に笑いを引き出されることがまず第一に重要な僕にとって、まったくオカシく思えないというのは致命的だ。

ところが今回は妙に笑える。こんなことは『オー・ブラザー!』('00)以来かも。今回は「CIA」とか「スパイ」とか「国際機密」とかに関する刷り込まれたイメージのアホらしさを笑い飛ばしているのだが、無意味をめぐる無意味な行為の連鎖がいつになく濃密なのだ(といって仕組まれたスキはてんこもりだが)。

タイトルからしてまず人を食っている。"バーン・アフター・リーディング"つまりスパイ映画の秘密指令書などによくある"読後焼却すべし"ってウォーニングだが、この映画の中心となるのもそうした機密情報......じゃなくって、"情報"ではあるけれど"機密"でもなんでもない、アル中でクビになったCIA局員(ジョン・マルコヴィッチ)のどうでもいい昔話ばかりまとめた回顧録。

このクズ同然のデータが入ったCD-Rを勤務先のフィットネス・ジムで拾ったのが、全身整形の妄念にとりつかれたフランシス・マクドーマンド&アホ汁を全身から沁み出させた筋肉バカのブラッド・ピット(頭のおかしな役が大好きなブラピだが、これはちょっと画期的だ)。「CIA=国家機密」なるハリウッド印の固定観念しか頭にない彼らは、このCD-Rをネタに大金をせしめようとする。

いっぽう、マルコヴィッチの妻ティルダ・スウィントンは財務省連邦保安官ジョージ・クルーニーと不倫中。しかし彼は自宅でファッキング・マシーンまでDIYするセックス中毒で、そんな男が偶然にも(笑)デートサイトで知り合ったマクドーマンドとも関係を持っちまったことから、なんだかワケ判らんうちに彼女の"陰謀"に巻き込まれて......いやはや大変な事態になっていくのですね(笑)。

なんの価値もないものをめぐる、このどうしようもない茶番劇。で結局勝利するのは......あーあ、下らん(笑)。ここまで完璧に「世界は空虚でアホらしい」ことを見せつけてくれりゃ言うことありませんよ。僕的にはコーエン兄弟最高傑作。

Text:Milkman Saito

『バーン・アフター・リーディング』

監督・脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:ブラッド・ピット、ジョージ・クルーニー、フランシス・マクドーマンド、ジョン・マルコヴィッチ、ティルダ・スウィントン
原題:Burn After Reading
製作国:2008年アメリカ映画
上映時間:1時間36分
配給:ギャガ・コミュニケーションズ、日活

http://burn.gyao.jp/

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