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『チョコレート・ファイター』

『チョコレート・ファイター』

アクション映画界にニューヒロイン誕生!
“最強美少女”による超絶アクションムービー

09 6/01 UPDATE

なにが凄いって、ひょっとすると古今東西最大のアクション・ヒロインが誕生したかもってことですよ。その名はジージャー!

もはやタイはアクション映画の主要発信地として定着した感があるが、中でもプラッチャヤー・ピンゲーオ監督、および相棒であるアクション監督パンナー・リットグライはそのパイオニアである。古式ムエタイの遣い手、トニー・ジャーが主演した『マッハ!』('03)『トム・ヤム・クン!』('05)はもはやマスターピースといっていいだろう。そんなコンビが見初めたのは、子供たちにテコンドーを教えていた当時高校3年生のヤーニン・ウィサミタナン、タイ人の常でニックネームで呼んで"ジージャー"。ふたりは彼女のスター性にひと目惚れし、主役でデビューさせようと画策。4年あまりかけてアクションと演技を叩きこみ、ようやくこの映画が生まれたんだという。

十数年前、非道の限りを尽くしてタイの黒社会を牛耳った大ボス"ナンバー8"。しかし情婦にして大姉御のジンは、対立する日本ヤクザの大物マサシ(阿部寛!)と恋に落ち、彼を日本に逃がしたあとひっそりと娘を出産した。

娘の名はゼン=禅。しかし彼女は生まれつき自閉症を背負い、知能の発達も遅れていた。足を洗ったジンはシングルマザーのまま細々と商売をはじめ、ゼンを美しい少女に育てあげる(もちろんジージャーの役である)。うちに引きこもったまま外に反応をまったく見せない彼女だが、そこは裏社会をブイブイいわせてきた二人の遺伝子を受け継いで、実は恐ろしい身体能力を秘めていた。しかも、ビデオでアクション映画を観ただけですぐさまその技を習得してしまうという特殊能力を持つことは、大道芸で一緒に小銭を稼ぐ幼なじみのムンしか知らない。

そんな彼女に突然の不幸が。母・ジンの白血病が発覚したのだ。治療費なんてまったくない。しかし母の貸金台帳を見つけたムンはそれを取り返すことを思いつく。でも相手は昔の母の知り合いばかり、カタギの仕事に見えても、一皮剥けば"ナンバー8"の舎弟である。詰め寄ってもはぐらかすばかりで返してくれない。追い返されてはならじとゼンは封印していたスーパーパワーを解き放った!

製氷工場、倉庫、精肉工場......闘う場所と相手が変わるたび、その設定を活かしたアクション・スタイルにどんどん変化していくのもバラエティに富んで楽しい。氷の塊、電動ノコギリ、鉤フックに包丁と、そこにあるのは物騒なものばかり。テコンドー、古式ムエタイ、カンフーと次々と流れるようなスピードで繰り出される技は多彩だが、華奢で手足の長いジージャーの動きは同時にコンテンポラリー・ダンスを見ているようでさえある。もちろんスタントなし、しかもムチャクチャ可愛い!

面白いのは「ビデオで習得する」という設定そのものが過去のアクション映画とそのヒーローへのオマージュにもなっていることだ。なにしろ最初に身体を目覚めさせたとき、いきなりジージャーが発するのは「怪鳥音」! もちろんブルース・リーを観ていた証拠である。また実際にはTVでトニー・ジャー映画を観ているところがばっちり映るし、格闘する場のマテリアルを活用するのはジャッキー・チェン的ともいえる。そもそも本作、ハンディ・キャップ・ヒーローの系列に属するものであるから、すぐさま思い浮かぶのはアジア圏でも広くヒットした勝新太郎の「座頭市」だ(綾瀬はるかの『ICHI』もどうしても連想するなあ)。

ハンディ・キャップというと、終盤の"ナンバー8"との闘いで、小児麻痺の刺客がいるってのが凄い。動きがイレギュラーだから、次の手がどう出るか予想のつかない恐怖の遣い手(ほとんど「酔拳」にも等しい)。ハンディ・キャッパーとハンディ・キャッパーの闘いというこんなシチュエーション、お題目だけのヒューマニズムにヘイコラしてる国では絶対できないよ(凶悪極まるゲイの軍団「イーヴル・キャンディ」なんてのも出てくる)。

クライマックスは広いビルの外壁と鉄道の高架とを往還しつつの大乱闘。外壁の狭いひさしや通路を横に移動しながら膝蹴りし、すぐさま階を上下して飛びかかる。縦横のコンポジションを計算したアクション設計はまさにデザイン的。日本から舞い戻ったジージャーの父親・阿部ちゃんの長脇差乱闘も見物。親と子の絆、という情の部分もアクションに埋没しきることなく、きっちり後に残るのがまたいい(脚本は、もうすぐ公開される青春映画の傑作『ミウの歌』を監督した若き俊英チューキアット・サックヴィーラクン)。

とにかく歴史に残るアクション映画のエポックであるのは間違いない。エンドクレジットのNGシーンにも総毛立つぞ。

Text:Milkman Saito

『チョコレート・ファイター』

監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ
脚本:ネパリー、チューキアット・サックヴィーラクン
出演:"ジージャー"、阿部寛、ポンパット・ワチラバンジョン、"ソム"アマラー・シリポン、イム・スジョン
原題:Chocolate
製作国:2008年タイ映画
上映時間:1時間39分
配給:東北新社

http://www.chocolatefighter.com/

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