09 7/03 UPDATE
いってみれば「アメリカ人ってガキだねぇ」というお話であります。異性との関係において対照的(にとりあえずは見える)なふたりの女性が登場するのは ウディ・アレンの映画によくある手だが、相手はニューヨーカーほどヤワじゃない。
彼氏と婚約中のヴィッキー(レベッカ・ホール)は誠意と安定を願うカタロニア文化研究者の卵。恋愛体質のクリスティーナ(スカーレット・ヨハンソン) は燃えるような情熱を求める映画作家(とはいえ監督・脚本・主演した12分の短編だけ)。そんなふたりが降り立ったのはスペインはバルセロナ。そこに住んでる叔母(パトリシア・クラークスン)夫婦の家でひと夏を過ごすためにやってきたのだ。
着いて早々赴いた展覧会のパーティで、クリスティーナは赤いシャツを着た派手な男に一瞬で惹かれる。誰かと叔母に尋ねると、果たしてすこぶる評判の悪い男アントニオ(ハビエル・バルデム)。なんでも妻に刺された末、泥沼離婚したばかりの画家らしい。
そのあとのレストラン。偶然場を同じくしたヴィッキー&クリスティーナにアントニオは近づいてきて「これから自家用飛行機で別荘に来ない?」と誘いをかける。「美味い料理を食べて、おいしいワインを呑んで、それから3人でセックスして」(笑)。
ヴィッキーは「妻をDVした男が何バカなこと言ってるの?」と冷たい目。でもクリスティーナはとっくに目で誘って腋まで見せる挑発の構えで「DV男だとしてもただのゾンビじゃないわ」とやんわりヴィッキーのフィアンセ(典型的ヤッピー)を皮肉って、行くわと即答してしまう。結局3人は空の上、終末をオビエドで過ごすことになったのだった。
はてさてその夜。やる気まんまんのクリスティーナはひとりでアントニオの部屋に行くものの急性胃潰瘍でダウン。翌日からアントニオはヴィッキーのみを案内することになって......。
さらにこの三人の関係に、アントニオを殺しかけたという元妻マリア(ペネロペ・クルス)が参戦。このふたり、相性最悪で壮絶な喧嘩が絶えないくせに、 離れたくても離れられない究極の腐れ縁。「成就しない愛だけがロマンティック」とのたまいつつ、相手を捕食せんばかりの濃厚スパニッシュ・ラヴに、セコい打算とひ弱な妄想だけのアメリカ人(自分が不倫してる事実を転嫁するため、姪っこをアントニオにけしかける叔母もいじましくて笑える)などてんで敵いっこないのである。
目まぐるしく変わるシチュエーションをいちいち説明しまくるナレーションが、喋りすぎという範疇を逸脱しすぎて逆に効果的だけど、たぶんこれはトリュフォー『突然炎のごとく』のイタダキでしょうね(愛の基本単位が3Pってのも同じだし)。それにしてもこのナレーションがアメリカ娘ふたりに対して悪意まんまん。学位論文だの映画作家だのと説明しておきながら、ぽつりと「スペインに来て感動したのはガウディとミロ」などと当たり前すぎるほど当たり前なところに落としてみたり。とりわけスノッブで自意識過剰、"自分探し"の権化のようなクリスティーナにはやたら冷たく、「異邦人気取りで欧州文化を吸収した」だの「めでたく才能ある芸術家の恋人になれた」だの、いちいち醒めた口調でツッコんでみせる。
まあ、とにかく終始意地悪なのだ、本作のウディは(あ、今回彼は出てません)。むろん皮肉の矛先は男性......つまりアントニオにも及んでいて、女性の手綱を握ってるつもりが結局は操られているマヌケ男、画家としての才能さえマリアのパクリではないかと匂わせる。こういう毒の強さは、ひとむかし以上前の作品になる『地球は女で回ってる』('97)以来かも。ラストのクールさなんてもう痺れちゃうんだよねぇ。
あ、ウディ映画には珍しく現代ポップのテーマソングもすこぶるキュート。ジウリア・イ・ロス・テラリーニって聞いたことないバンドだが、ツンデレな女性ヴォーカルにスパニッシュ・ギター、音楽ノコギリとへろへろなミュート・トランペットが絶妙で、なんだかそれだけで笑えてくるんだな。傑作。
Text:Milkman Saito
『それでも恋するバルセロナ』
監督/脚本:ウディ・アレン
出演:スカーレット・ヨハンソン、ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、、レベッカ・ホールほか
原題:Vicky Cristina Barcelona
製作国:2008年アメリカ・スペイン合作映画
上映時間:1時間36分
配給:アスミック・エース
大ヒット上映中!
©2008 Gravier Productions, Inc. and MediaProduction, S.L.