honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

『サマーウォーズ』

『サマーウォーズ』

笑わせ泣かせキュンとさせ燃えあがらせる怒濤の映画

09 8/12 UPDATE

いまだに映画ってやつは、「現実=本物=正」「ネット=偽物=悪」という固定観念のうえで創られた物語が多くて閉口してしまう。観ながら「いったいいつの時代の感覚なんだよ」と何度ツッコんだことか。

あの傑作『時をかける少女』('06)の主要スタッフ......つまり、細田守監督、奥寺佐渡子脚本、貞本義行キャラクターデザインが再結集した、アニメーション・ファンならずとも期待の新作。これもヴァーチャル世界が現実世界に脅威を及ぼす物語なのだけれど、「ネット=偽物=悪」といった短絡さは微塵もない。かつて『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』('00)で同種の題材を傑作に仕立てた細田守だから当然、という捉え方もできるが、これはネット世代のみに向けた作品ではなく堂々たるファミリー・エンタテイメント。「ネット世界は現実世界と同等にリアルなものであり、したがって現実世界と同様に、正と悪どちらも内包している」という当たり前な観点を、当たり前のように打ち出すのは映画としては珍しいことなのだ。

線画メインの白っぽい空間に、かたちの異なる二頭身の無数のアバターが浮遊する仮想都市「OZ」。明らかに村上隆的なデザイン(村上がルイ・ヴィトンと共同制作したアニメーションも細田監督は手掛けている)なそれは、ショッピングから公共サービスまで居ながらにして可能。外国語の瞬時翻訳機能も完璧なので、世界で数億人が利用しているという、まさにもうひとつの社会だ。2009年現在こういうものはないけれども、近似したものはすぐに思いつくわけで極めてリアルな感触がある。

このOZに謎のハッキングAI「ラブマシーン」が侵入、4億人以上のアカウントを奪取して、現実世界を大混乱に陥れる。心ならずもOZの管理棟パスワード解析に加担してしまった(?)のが、数学オリンピック出場まであと一歩のところだった高校2年の健二(声は神木隆之介。ウブで草食系っぽい感じがぴったり)。そしてこの映画における現実世界の中心......そして世界の運命を左右する闘いの中心は、なぁんと健二が逗留していた信州上田の田舎町。憧れの先輩・夏希(声は桜庭ななみ。ちょいお姉さんっぽい態度取ってるけど、ポキンと折れやすい年頃って感じがいい)の実家である旧家・陣内家なのだ。

室町時代から続く武士の家系である陣内家には、一家を束ねてきた祖母・栄がいる。90歳になる彼女(声は富司純子。まさしく"刀自"といった風格!)のために、日本各地から親族が集まってくるのだが、その最中のパニック。今まさに世界が攻めこまれている状態だと察知した栄は、地元の電器屋魚屋から市ヶ谷の自衛隊、果ては警視総監まで広がる親族を電話で叱咤激励。奮い立った一族は、かなぁりスーパーな機材まで屋敷にどっかり持ちこんでネットワークの危機に挑むのである。健二はラブマシーンが次々と突きつけてくる暗号を解きまくる。ひ孫の少年は、実は格闘ゲーム界では知らぬ者なき世界チャンピオン、強大なアバターと化したラブマシーンに一騎打ちを挑む。健二は数学の才能でシステムの暗号を解き、夏希は祖母直伝(つまりは緋牡丹お龍直伝ってところか)の花札勝負でラブマシーンと最終決戦!......という、それぞれの持ち株を生かしながらの連携プレイは興奮必至だ(ま、その裏には、一族の厄介者・侘助と栄のドラマもあるのだが...)。

まっ青な空、緑の山々、わき上がる入道雲、長〜い縁側、垣根の朝顔。母屋と離れの棟、廊下など伝統的な屋敷の構造もきちんと押さえ、いかにも"日本の原風景"的でドメスティックな信州上田と、グラフィックな仮想都市でのサイバー・バトルの落差にはクラクラする。しかしこの両者どちらもが「とてもリアルだ!」と感じてしまえる日本人だからこそ創れた映画ではあるだろう。なんせ我々はインベーダーブーム以来30年、ヴァーチャルな世界を暮らしの中にいともすんなりとけ込ませてきた、世界でも珍しい国民なのだから。

確かに本作は「家族」がテーマだ。そうした単位を謳歌する内容であるにはある。しかしこれは「血の通った家族」VS「血の通わないネット」といった古くさい対立項として持ち出されているわけではもちろん、ない。それどころかラブマシーンとの闘いの結果、「家族」という単位についての新たな認識が指し示されもするのが本作の凄いところだ。これが泣かせる。

9.11以降、他者を理解しようとするよりも排斥しようとする力が強まったと思える現実世界。これを家族の単位から見つめ直そうとする映画......たとえば『扉をたたく人』や『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』などが相次いで現れたが、そうしたものの見方とも関連づけることができるのではないだろうか。

......ま、なにはともかくコレはアニメーション。大家族個々人のキャラクターを全面に出しつつ、一斉にワラワラと動かしてみせるチャレンジングな技術にも驚嘆するが、なんといっても細田監督の得意技たる、仕草による繊細な心理表現も随所で炸裂(健二をジッと見詰め、どんな男か見定める祖母の瞳の白い部分の微妙な動き! 動揺する夏希と慰めようとする健二との指先の触れあい!)。あらゆる要素をぎっちり詰めこみ、笑わせ泣かせキュンとさせ燃えあがらせる怒濤の映画。エンタテインメントとしてもレヴェルは最上級、もっとも先鋭的な一本だ。

Text:Milkman Saito

『サマーウォーズ』

監督:細田守
製作総指揮:奥田誠治
脚本:奥寺佐渡子
キャスト:神木隆之介、桜庭みなみ、谷村美月、ほか
製作国:2009年日本映画
上映時間:1時間54分
配給:ワーナー・ブラザース映画

大ヒット上映中

http://s-wars.jp/index.html

©2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS