honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

ドゥームズデイ

ドゥームズデイ

イギリス・ホラー界の奇才、ニール・マーシャルが描く
近未来SFホラームービーの怪作

09 10/13 UPDATE

スコットランドの山奥での兵士と狼男との攻防戦を描いたノンストップ爆笑スプラッタ『ドッグ・ソルジャー』('02)。アパラチアの暗黒洞窟での退化人間との死闘に女性同士の愛憎劇が絡み合う強烈サスペンス・ホラー『ディセント』('05)。今までに発表した2作品がいずれもカルト・ムービー化しているイギリス・ホラー界の奇才、それがニール・マーシャルだ。

といって、コレは凄い。既存の映画の世界観をつぎはぎするのはホラー映画では常套手段だが、これほど無茶苦茶な折衷ぶりってのもあんまりないだろう。ま、明らかにフザケてるんだけれど、それぞれのパーツが無類に面白く、「オレっていま、ひょっとしてとんでもない映画観ちゃってるんじゃない?」的驚きと満腹感で幸せになる(?) こと確実の怪作だ。

まずとりあえずは2008年のスコットランドが話の発端(つまり本作の製作年であります)。グラスゴーでまるでエボラ出血熱みたいな謎の殺人ウィルスが発生、またたくうちにパンデミックが起こる。全土への拡大を怖れた政府は、イングランドとスコットランドの境界を巨大な城壁で隔離! 食料も尽きたスコットランドは共食いもはびこる暗黒領域として世界から見捨てられてしまった。

......ってこれだけでも両地域の歴史的確執が背景にあるのは間違いないんだけど(笑) このトンデモ設定はさらにエスカレートしていく。

時は移って2035年。今度は大都市ロンドンに同じ殺人ウィルスが出現した!  国家保安部のチーフ(ボブ・ホスキンス)は権力の中枢部から使命を受ける......ウィルスで死滅したはずのスコットランドにはまだ多くの生存者たちがいるらしい。つまり壁の向こうではすでに治療薬が開発されているのではないか、と。
 
実は封鎖される以前、抗ウィルス剤研究の第一人者ケイン博士(『時計じかけのオレンジ』も懐かしい、今やすっかり怪優の域のマルコム・マクダウェル!)も発病しスコットランド側に隔離されてしまっていたのだ。彼が治療薬開発に成功したに違いない。隊長には、幼い頃に母から引き離され、ひとりスコットランドから避難された隻眼の(といっても義眼は高性能キャメラ)女性戦士エデン(ローナ・ミトラ)が任命され、治療薬を奪取すべく城壁を越える。......まるでジョン・カーペーター『ニューヨーク1997』みたいな展開だ。

だが彼らに襲いかかってきたのは、人肉と暴力に飢え、斧を振りかざしたパンクス集団! パンクスなのに頭蓋吹っ飛ばさないと死なないのはまるでゾンビだ(笑)。モロにウォルター・ヒル『ウォリアーズ』のバーバリズムと『ヴァンパイア/最期の聖戦』の残虐スプラッタを合わせたみたいじゃないか!

などと呆れてる間もなく、野蛮極まるカリスマ的リーダー、ソルに掴まったクルーはパンクなバーレスク・ショウ......というか、人質を網の上に乗せて火あぶりにする人肉バーベキューに供されることとなる。こりゃもうなんというか、『マッド・マックス2』というより「北斗の拳」というか、あるいはケン・ラッセル的な悪趣味というか。モヒカン、メタルはもちろんのこと、全身ラテックス姿の男性マゾペットはいるわ、アフリカン・メイクな暴力女はいるわの狂い果てた世界。こんなところで食われてちゃたまんないから、もちろん脱出を図るエデンたち。牢屋の中で出会ったのがケイン博士の娘で、彼女の助けで博士の居場所へと旅立つが......。

んで、ここからがまた凄い。『地獄の黙示録』のカーツというか、コンラッドの「闇の奥」というか、ケイン博士はまんま中世の領主みたいに古ぼけた城塞に住み、原住民ならぬスコットランド人の王として君臨しておったのだ! しかもエデンは、いきなり競技場で甲冑着けた騎士とグラディエーターさせられるハメに......ってアナタ、いきなり騎士物語かよ、中世暗黒ファンタジーかよ。

しかぁし。ここですっかり途方に暮れてしまったアナタをこの映画は許してくれない。なぜかこの疑似中世世界とグラスゴーは『レイダース』に出てきたような、なんでも保管してある巨大倉庫でつながっていて、そこにはスーパーカーもケイタイも用意されており......追いかけてきたパンクスたちの改造車との、壮絶ハイスピードチェイスへと突入してしまうのである! フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「トゥー・トライブス」が鳴り響く中で繰り広げられる、それこそ『マッド・マックス2』を『デス・プルーフ in グラインドハウス』ばりの肉体スタントでもってジョン・カーペンターが撮ったような大馬鹿ギャグ満載のカー・アクションったらもう!!

いやホント、こんなに開き直った映画も久しぶりだな。70年生まれのニール・マーシャル、自分が映画ファンだったころに観まくったのであろう近未来アクション群が好きで好きでたまらないのはイヤっていうほど判るが、それをこんな闇鍋みたいなかたちで愛情告白しちゃうのがいかにもなところ。ローナ・ミトラも『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチそこのけにカッコいいとこ見せてるんだけど、いやぁ、監督の個性の強さばっかり目立ってしまって損してますね(オチは大笑いだけど)。とにかくもう、思いっきり翻弄されるつもりでお試しあれ。

Text:Milkman Saito

『ドゥームズデイ』

監督・脚本:ニール・マーシャル
製作:スティーヴン・ポール
出演:ローナ・ミトラ、ボブ・ホスキンス、エイドリアン・レスター、アレクサンダー・シディグ、デヴィッド・オハラ、マルコム・マクダウェル
制作国:2008年アメリカ映画
上映時間:110分
原題:Doomsday
配給:プレシディオ

絶賛公開中!

©2008 ROGUE PICTURES

R-15

www.doomsday.jp