09 10/19 UPDATE
『アモーレス・ペロス』『21グラム』『バベル』の3作品で、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督と組み、メキシコ映画界の豊穣さ・革新性を世界にアピールした脚本家ギジェルモ・アリアガ。『バベル』のすぐあとで「アイツの映画はオレの功績」と口を滑らしゴンサレス・イニャリトゥと決別しちゃってからの初監督作がコレである。
ま、デカい口叩いただけのことはあって(笑) 演出手腕はぜんぜん及第点。時空間を交錯させて、ある因果律のうえに生きる人々の、業の深いドラマを描きみせるという彼らしさは十二分に発揮されているといっていいだろう。
いきなり冒頭に、合衆国/メキシコ国境あたりとおぼしき野っぱらで、激しく炎上するトレーラーハウス。コレはシルヴィア(シャーリズ・セロン)の夢の映像だとすぐに判るのだが、どうも彼女は行きずり同然の男とベッドの中にいるらしい。場所は北の国境メイン州のポートランド、冷たく荒い波が打ちつける寒々しい街。......シャーリズが脱ぎ惜しみなんてしない女優なのはよぉぉく知ってるが、通学時間の道路に窓からどーんと見事な全裸を晒してみせる大胆さ。彼女の女優としての心意気が判ると同時に、演じるシルヴィアの痛々しさもまた切実に胸に迫ってくる。実際シルヴィアは、海岸の石ころで太腿に自傷したりなんかするいかにもヤバい女なのだ。
と、映画はその"夢"の場所、南の国境へと何のためらいもなく転換する。こっちのドラマは、メキシコ系セスナ乗り(ヨアキム・デ・アルメイダ)とアメリカ人主婦(キム・ベイシンガー)の中年不倫カップル、そして、それぞれの娘と息子の物語だ。
ふたつの土地、ふたつの物語、そして実はふたつの時代。どこでどう関係しあうのか、容易には解きほぐせないそれらの断片が頻繁に交錯するうち、あるひとつの像が立ち上がってくる。これぞまさにアリアガ・マジック。観客はねじれた時空のなかに、ひとりの少女の拭いがたきトラウマが次第に明らかになってくるのに立ち会うこととなるだろう。......ま、あまり細かいことを書きすぎると元も子もなくなってしまうのが辛い構成ではあるのだけどね。
注目すべきは「南の国境」パートの主演を担う新人、ジェニファー・ローレンス。母キム・ベイシンガーの不倫相手の息子と恋に落ちる娘の役だが、秘めたる熱情を押さえ気味の演技の中に発露していて素晴らしい。
Text:Milkman Saito
『あの日、欲望の大地で』
監督・脚本:ギジェルモ・アリアガ
出演:シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガー、ジェニファー・ローレンス、ジョン・コーベット、ヨアキム・デ・アルメイダ、ダニー・ピノ、ホセ・マリア・ヤスピク、J・D・パルド、ブレット・カレン、テッサ・イア
製作国:2008年アメリカ映画
上映時間:106分
原題:THE BURNING PLAIN
配給:東北新社
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