09 12/02 UPDATE
なぜ大ヒットしたのか不思議で仕方がなかった映画に『舞妓Haaaan!!!』という大怪作がある。阿部サダヲといういってみればかなぁりアクの強いマニアックな役者が主演。阿部とは大人計画の、というか「グループ魂」の盟友である宮藤官九郎は確かに超売れっ子脚本化ではあるけれど、あそこまでムチャクチャやっちゃっていいのかね。日本コメディ映画史上、稀有な冒険作にして結果は見事にアノ成績。謎だ(笑)。あ、僕はもちろん大好きなんですけどね。
で、その監督であった水田伸生とのトリオが再結集したのが本作。正直、前作ほど破天荒では、ない。しかしそれはパワーを減じたというワケではなく、もう少しまっとうなルートを全裸で猛爆走しちまったような感じなのだな。ずばり今回のテーマは「日本的ホームドラマについて」。
舞台はアーケード商店街、今や人気店となった昔ながらのハムカツ屋。無茶苦茶な父親に捨てられ、生き別れた兄弟。養父母との、商店街の人々との親愛の情溢れるつながり。妻となる女性との恋愛。彼女の秘められた過去。そして兄弟の再会。
いかにも古典的だ。しかしちょっとずつ狂ってる。兄・祐太(阿部サダヲ)は育ての親の恩に報いるためとはいえ、卑屈なほどに気を廻らす究極の八方美人。日々、内に溜めまくった屈折は、実は別のかたちで発散させている。彼の妻となる育ての親の娘・徹子は、登場したときは超のつくぐうたらデブ、でも家を出て戻ってきたら竹内結子(笑....やっぱり彼女が巧いんだ。間も絶妙で綺麗だし)。しかしやたらとエコロジーにこだわるのが謎なのだが......。弟・祐介(瑛太)は人気はあるけれど才能のない漫才コンビの片割れで解散の危機。兄弟は再会してもギクシャクしどおしで、なのに、あの極道者の父(井原剛志、なかなかいい味)がふと舞い戻ってくる。
そんな「家族」が夕食のテーブルを囲むあまりにも気まずすぎるシーンは本作の白眉だ。いつも笑い顔を浮かべている兄はついに本音を吐く「腹の中では1ミリも笑っていない」「笑顔が顔に覆面レスラーみたいにへばりついてる」。そんな兄を笑わせたいと思う、笑いの才能がない弟。......まったくもってシリアスだ。演技も、微塵も笑わせようとしていない。しかしオカシい。たまらなくオカシい。これぞまさにトラジコメディである。
思えば山田太一に代表される70~80年代のホームドラマは鬱屈を抱えた家族の群像をたいそうシリアスに描いたものだった。家族の化けの皮を剥ぎ、ずたずたになった傷跡をあらわにした。そんな王道の(といってもその当時はニューウェイヴだった)ホームドラマの味がこの映画にはある。ただし、おかしみ、というよりも爆笑苦笑を伴って。
しかしながら映画は終盤、沖縄に舞台を移し、いっけん能天気に展開しはじめる。でもこの唐突すぎるタイミング、緊張感をあえてぶった切るお気楽さ、なんだかかつてのクレイジーキャッツ映画っぽいんだよね。そういや『舞妓Haaaan!!!』も60年代東宝サラリーマンコメディへのオマージュが多分に含まれていたからね。それでこそ東宝マークの価値があるってものだ。
Text:Milkman Saito
『なくもんか』
監督:水田伸生
脚本:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、瑛太、竹内結子、塚本高史、皆川猿時、片桐はいり、鈴木砂羽、カンニング竹山、高橋ジョージ/陣内孝則〈特別出演〉
製作国:2009年日本映画
上映時間:2時間14分
配給:東宝
http://nakumonka.jp/
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© 2009「なくもんか」製作委員会