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戦場でワルツを

戦場でワルツを

アリ・フォルマンの実体験に基づく、
夢と現実、嘘と真実の境が渾然となった主観の世界

09 12/14 UPDATE

記憶というのは不確かなものだ。脳は自分の都合に合わせて記憶をどのようにも変容させ、それがさも真の現実であるかのように刷り込ませたりもしてしまう。そんな曖昧な記憶の延長線上に「いま」があると気づいたとき、ひとはどれだけ「現実」を確かなものと捉え続けることができるだろうか。

この映画の主人公......それはすなわち監督のアリ・フォルマン自身なのだが(ま、「=」ではないにしろ、充分に「≒」である)、1982年のイスラエル軍によるレバノン侵攻に従軍した(というか、させられた)。サブラ・シャティーラ地区のパレスチナ難民キャンプで起こった大量虐殺の場にも居合わせたはずである。当時彼は19歳だったが、24年も経った2006年のある日、共に従軍した旧友が毎夜うなされるという奇妙な悪夢の話を聞かされてはたと気づく。「26匹の犬に襲われる」という彼の悪夢はあのレバノンでの記憶が変質したものではないか。確かに自分もレバノン侵攻に参加した。しかしそのときの記憶が全くないじゃないか。いや、ひとつだけ思い出したぞ。それは黄金色の照明弾が光り輝くベイルートの海辺に全裸で上陸する自分の姿......。そんな記憶が本当のものだとは考えられない。彼は消えてしまった記憶を呼び覚まそうと、かつての友に話を聞くべく旅をはじめる。
 
夢と現実、嘘と真実、それらの境が渾然となった主観の世界を描くのにアニメーションはうってつけ。そういう意味で、本作のような紛れもないドキュメンタリーにアニメを導入したのは大正解だ(直視するに耐えぬ現実を「絵」で逃げているわけでないことはラストで判る)。
 
証言者に取材したインタビュー風景も、取材する自分の姿も、彼らや自分が見た記憶も夢も、ぜーんぶひとしなみ。あらかじめビデオ撮影されたライヴ・アクションをもとに(トレースせずに)イラストレーションを描き起こし、それをフラッシュでアニメートする......といった手法は、決して緻密な動きをみせるわけではない (いや、稚拙といっていい部分さえある)。しかし、どちらかというと夢に近い、いささか非現実的でぶっきらぼうな動きが本作の場合ぴったりなのだ。ダニエル・クロウズ等を想起させるオルタナティヴ・コミック/ポップ・アート的な画調にも爆発的な異化効果がある。
 
1982年当時もそうだったが、現在も続くガザ地区情勢をみても、イスラエルと周辺諸国との関係は複雑怪奇だ。国民皆兵制により無理矢理戦争のなかへ放りこまれる国民たちが、そんな不条理な状況のすべてを理解しているわけもない。本作がジャーナリスティックな告発映画の次元を超え、"戦争映画"としての普遍性を獲得したのは実はその点にこそある。とりあえず、まずこれはパーソナルな物語、どこの戦場でも起こりうる一兵士の物語なのだ。

Text:Milkman Saito

『戦場でワルツを』

監督・脚本:アリ・フォルマン
キャスト:アリ・フォルマン
製作国:2008年イスラエル・ドイツ・フランス・アメリカ合作、イスラエル映画
上映時間:90分
原題:Waltz with Bashir
配給:ツイン/博報堂DYメディアパートナーズ

大ヒット上映中!

http://www.waltz-wo.jp/

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