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こどものアタマの中ってのは、われわれ大人が考えるより、よほど過激でワイルドなのだ。現実と空想はほとんど地続きで、自分に降りかかってきたあらゆるネガティヴな感情や解決できない問題と、そんなシームレスな世界の中で葛藤し、闘い、あるいはじゃれ合い、解決していく。
そっか、モーリス・センダックの"かいじゅう"ってのは、あの頃の自分にしょっちゅう渦巻いていた荒ぶる感情だったんだ。"かいじゅうたち"すなわち"ワイルド・シングス=野生的なるもの"。いまや児童図書の定番となった超名作絵本と親密に接したおそらく最初の世代である40歳のスパイク・ジョーンズ(そっか、MTVとスケート時代の寵児もそんな年齢なのだな)はあの頃の自分に戻り、徹底してこどもの視座からこどもの現実と空想を描く。なんせ冒頭のワーナー・マークからして主人公マックスの落書きまみれ。飼い犬を追って階段を駆け下り、家を走り回り、乱暴に組み敷いたマックスのストップモーションに荒々しい手書き文字のタイトル...いや、このタイミングが実にカッコいいんだが、まさしくマックスこそが獣よりも"かいじゅう"なのである。
原作はたった40ページ足らずの、それもほとんど絵であって文字は少ししかないものなので、長篇にするには大幅に物語が創作されている。本作でのマックスは、サバービアに住む離婚家庭の9歳児。ママは仕事とボーイフレンドに忙しく、ミドルティーンのお姉ちゃんも同年代の友達と遊んでばかり。離れて住むパパからプレゼントされた地球儀を見るたび(このマックスの部屋のディテイルに注目!)、もう昔のような幸せなときは戻っては来ず、もう自分にかまってくれるのは誰もいないと疎外感と苛立ちでいっぱいになる。ある夜、ついに自分の感情をコントロールできなくなったマックスは、お気に入りのオオカミ・スーツを着たまま家を飛び出した。走って走って走って走って......いつしか彼は静かな水辺に。マックスはボートに乗り込んで大海原へこぎ出して行くと、たどり着いたのは見知らぬ島。あかりを頼って丘に登れば、そこにいたのは巨大な"かいじゅうたち"だった!
この"かいじゅうたち"の造形が実にいい。なんたって巨大な着ぐるみなのだ! 正確にはアニマトロニクスやCGIとの精巧な合わせ技なのであって、表情の微妙な変化は驚異的なのだけれど、まあ、パッと見は作り物っぽさたっぷりのモワモワモコモコ(笑)。このいきもの的で暖かな感触だけは、いくらCG技術が進歩したって出せるものではありません。
そんな"かいじゅうたち"にはそれぞれの個性がある。自分の理想世界が崩れていくのに耐えられず周囲に当たりちらす、直情的で孤独なキャロル。知らない世界を求めたいのに"家族"にも後ろ髪を引かれる優しいKW。現実主義者の皮肉屋ジュディス。そんな妻を鷹揚に扱う夫のアイラ。頼りがいのある力持ちダグラス。いつも孤立していて遠目に見守るザ・ブル。目立ちたがり屋だけど小さな身体に劣等感を持つアレクサンダー。......7匹の"かいじゅうたち"はみんなマックスの家族をどこかしら反映させている。いや、それ以前にみんなマックス自身なのだ。
そんな彼らの「王様」としてマックスは君臨しようとするけれど、"かいじゅうたち"は飼いならしたいけど飼いならせないもの。彼らと遊び、争い、語りあうことはすなわち9歳児の自己セラピー。ま、もちろんこどもの心を多分に残した大人が考えたこどもの世界、ってところもないではないが、それでも真摯な気持ちで臨んでいるのが観ていて素直に感じ取れるのである。だから理性ぶった大人の心でみるとあまりに掴みどころがなくて困ってしまうかもだが、観てるうちにそれぞれの内に眠っていた少年時代の心にリンクして、脳からアルファ波出まくってるような感覚に襲われること必至。
めまぐるしく移ろう音楽、変幻自在で投げやりなカレンO(ヤー・ヤー・ヤーズ)のヴォーカルとも相俟って、なんだか記憶の深い部分を刺激され、いつまでも"かいじゅう"たちの島にとどまっていたくなるんだよね。はっきりいってリビート率高いぞ!
Text:Milkman Saito
『かいじゅうたちのいるところ』
監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:スパイク・ジョーンズ、デイブ・エッガース
出演:マックス・レコーズ、キャサリン・キーナー、マーク・ラファロ、ローレン・アンブローズ、クリス・クーパー、ジェイムズ・ガンドルフィーニ、キャサリン・オハラ、フォレスト・ウィテカー、ポール・ダノ
製作国:2009年アメリカ映画
上映時間:101分
原題:WHERE THE WILD THINGS ARE
配給:ワーナー・ブラザース映画
大ヒット上映中!
日本公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/wherethewildthingsare/
オリジナル公式サイト:http://wherethewildthingsare.warnerbros.com/
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