10 2/05 UPDATE
ここ数年のお笑いブームの余勢を駆ってか、よしもと印の映画が増えている。でもこれって今に限ったことではないんだよね。そもそも吉本興業は1930年代、しゃべくり漫才の祖エンタツ・アチャコのブーム時から映画の世界に携わっているのだから、映像文化がこれほど浸透した今、芸人たちが自ら手掛ける映画を連発したって何の不思議もないではないか。たとえば松本人志の映画。「しょせんひとりよがりのコントじゃないか」というハナシもあるが、映画が大きなコントで何故いけない? "ひとりよがり"で何故いけないんだ?......僕は彼の作品として観て結構面白いんだけど、それはさておき(笑)。
2009年にキム兄こと木村祐一の撮った『ニセ札』は、今村昌平を彷彿とさせる正統的(反)社会派映画の趣をたたえていて、その「映画」としての完成度は驚かせるに充分だった。それは紛れもなく「映画」の空気をたたえていた。でも......いささか端正すぎたのが惜しいところだったかな? そこで板尾だ。
俳優としては映画・舞台ともにすでに独自の地位を確立しちまった感のある板尾。「ごっつええ感じ」以来ずっと醸し出しつづける不穏な空気、タダ者でないことだけは充分に証明している。で、彼が映画を撮るとどうなるか、ってのが問題なのだが......はっきり言ってこれが傑作なのですね。日本映画の新しい才人の誕生と言わざるを得ない出来なのだ!
昭和初期の刑務所。幾度も脱獄を執拗に繰り返してきた男・鈴木(板尾)が送られてきた。もちろん看守たちは、札付きのその男に戦々恐々、メンツをかけて破られまいと注意を集めていたのだが......いとも簡単に牢を破られてしまう。でもその巧みさとはアンバランスこの上なく、彼はいつも簡単に掴まってしまうのだ! それでも懲りずに脱獄を繰り返す鈴木。何故? そこに理由はあるのか?
そんな疑問を抱いたのは看守長。鈴木に逃げられたにも関わらず司法庁の中枢に登用された腕利き・金村(國村隼)だ。金村はやがて、ほとんど伝説と化した鈴木と再会し、究極の奈落「監獄島」送りになった鈴木の警護を申し出る......。
「島」なんてのが出てくるあたり、『パピヨン』等の脱獄映画の面白さを再現しようとしているのは判る。なんせ全篇にわたり、美術・照明・撮影が素晴らしい。正直、やる気まんまんなのである。脱獄ものらしいクリシェはしっかり用意されているが素直にはオチず、すっとぼけるべきところすっとぼけ、細部にやたらとこだわったりもしつつ、笑わせるでもなくシリアスでもないところに導く絶妙な浮遊感はちょっとない空気感を醸し出す。
「監獄島」の描写ともなると、もはやこれはモダンアートだ。しかもその結末のバカバカしすぎるオチ! これは2010年、早々に出現した日本映画の傑作。ぜひ一年に一本は撮り続けていただきたい!! 凄いぜ、板尾創路。
Text:Milkman Saito
『板尾創路の脱獄王』
監督:板尾創路
脚本:増本庄一郎、板尾創路、山口雄大
出演:板尾創路、國村隼、ぼんちおさむ、オール巨人、木村祐一、宮迫博之、千原せいじ、阿藤快、津田寛治、笑福亭松之助、石坂浩二
製作国:2009年日本映画
上映時間:1時間34分
配給:角川映画
大ヒット上映中!
© 2009「板尾創路の脱獄王」製作委員会