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刑事ドラマ、とりわけバディ・ムーヴィのパロディというのは東西問わず数多い。ま、元ネタからして、ほとんどコメディすれすれに荒唐無稽だからおちょくるのも容易なのだが、もちろんそういう笑いも押さえつつ、こりゃ意外なところで驚かせてくれる作品なのだ。
『リーサル・ウェポン』や『バッドボーイズ』のような、規則など顧みずド派手でムチャで一般市民まで巻き込みまくる捜査をやらかす命知らずな野郎が"いわゆる刑事アクション"の主役だとすれば、事件解決よりわが身の安全、与えられた作業に地道にいそしむのがこちらの主役「アザー・ガイズ」......「その他大勢の男たち」ってことになる。
そんなガイズを演じるのは、ウィル・フェレルとマーク・ウォルバーグ(この珍妙な組み合わせだけで、とりあえずは"買い"だろ、この映画)。引っ込み思案でデスクワーク大好きなウィルと、破天荒デカになりたいばかりに勢いあまって誤射、内勤の冷や飯喰わされてるマーク。事務仕事をハミングしながら楽しそうにこなすウィルと、マッチョな性格を封印されてやたらカリカリなマークの対比がすでに可笑しい(デスクワーク放棄の意思表示なのか、やたらと間抜けなマークのPCのデスクトップもね)。......もっともこの二人、そんな単純な対比に収まらず、途中でとんでもないヒネリが加わるってのがまたいいのだが。
ちなみに舞台はニューヨークだ。ニューヨークだからもちろん命知らずのデカはいる(サミュエル・L・ジャクスン&ザ・ロックことドウェイン・ジョンスン!)。でも冒頭でステイン・アライヴのベース・トラックに乗ってブラッカイマー式の市街破壊アクションを繰り広げたあと、そういうタイプの映画なら絶対にどうにかなるようなシチュエイションでどうにもならなくて(爆)、マッチョなデカはあっさり姿を消し、アザー・ガイズが事件を追うことになるってわけ。
ただし、端緒は建築法違反に類するちっぽけな事件。でも調べていくうち、鉄球で宝石店の壁を白昼堂々ぶち壊しての強盗事件とか、チェチェンやナイジェリアなど紛争地域をカモにした資産運用とか、はたまたNY市警の年金運用とか、そんなのがひとつに結びついていく。黒幕は「アメリカ資本主義セミナー」を主宰する大投資家(スティーヴ・クーガン)。その裏にはあのアメリカ金融崩壊があって......と、シリアスな刑事ドラマでも充分に通用するネタであることが明らかになっていくのだ(もちろんアホっぽさは失わずに)。さらに大団円後のエンドクレジットでは経済の矛盾、金融崩壊のメカニズムをお洒落なモーション・グラフィックで示してみせる周到さ (デザインはタイトル工房、ピクチャー・ミル)。
マフィアや武器商人やテロリストや独裁者、それはもちろん悪である。だが彼らを利用する恥知らずで超利己的な悪の元凶、悪の張本人はウォール街でのうのうとしているのだ......ということを言いたいがために、こんな馬鹿なお膳立てをする監督・脚本・製作のアダム・マッケイ、まったくどうかしているが(苦笑)気骨のあるヤツである。
あ、ウィル・フェレルのこのテのコメディならお下劣ネタを忘れちゃならない。この映画でのマーク・ウォルバーグはなぜかぜんぜんモテず、そっちは一手にウィルが引き受ける。マッチョな刑事は絶対選ばぬようなエコカー「プリウス」に乗り(マークからは"お○○こみたいな車"と茶化されるが)、ソフトでメロウなリトル・リヴァー・バンドとTLCをこよなく愛すウィル。でも道行く女性はそんなダサい彼を見るなり、吸い寄せられるように色目を使うのだ。妻もまたセクシーでエッチな美女で (茶番のような芝居にきっちり付き合うエヴァ・メンデスがエラい)、なぜそんなに女性しか嗅ぎつけぬフェロモンを発散させているのかというと彼の過去に理由があるのだが......それは観てのお楽しみ。それに関わるシーロー・グリーン&エヴァ・メンデスのソウルフルなエンドタイトル・ソングも大笑いだ。いかにも40年くらい前の音っぽいが、なんとジョン・ブライオンのオリジナル。ポール・トーマス・アンダーソン作品などで実験的な音空間を作り上げている彼も、もともとはシンガーソング・ライター。引き出しが多いよなあ。
text:Milkman Saito
原題:The Other Guys
監督:アダム・マッケイ
脚本:アダム・マッケイ
出演:ウィル・フェレル、マーク・ウォルバーグ、エヴァ・メンデス、マイケル・キートン、サミュエル・L・ジャクソン、ドウェイン・ジョンソン、
音楽:ジョン・ブライオン
制作国:アメリカ
制作年:2010
上映時間:110分
配給:日活
全国上映中!
http://www.otherguys.jp/
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