11 12/16 UPDATE
原題が、まず素晴らしい。"Crazy, Stupid, Love."。まさに狂おしく、馬鹿げたもの、それが愛。マトモな人もクレイジーに、愚かにしちまうもの、それが恋。ラブコメというジャンルが基本的に、色恋という人間の性(サガ)を嗤いつつも慈しみ愛でるものとすれば、これほどの作品はそう現れるもんじゃない。
主要な登場人物だけで10代~40代の男女9人が織りなす恋愛模様なのだけれど、おおまかにいって3つのエピソードから成っている。
まずは、25年連れ添った妻のエミリー(ジュリアン・ムーア)からとつぜん離婚を切り出された夫・キャル(スティーヴ・カレル)の物語。夫への不満と中年クライシスからくるモヤモヤから、会社の同僚(ケヴィン・ベーコン)と浮気してしまったと電撃告白されたのだ。やむなく妻とふたりの子供にマイホームを明け渡したキャルはわびしい一人暮らしを始めるが、夜な夜な行きつけのバーで荒れまくる始末(なんと彼は学生結婚した妻としか女性関係がないのだ!)。そんな寝取られ中年男の自虐に辟易したのが、そのバーを根城にしている名うてのナンパ師、ジェイコブ(ライアン・ゴスリング)。彼はキャルに"男らしさを取り戻す術"、つまりは女性にモテる方法を伝授することになる...。
そんなキャルの13歳になる息子ロビー(ジョナ・ボボ)は、ベビーシッターとして我が家に通う17歳の高校生ジェシカ(アナリー・ティプトン)に首ったけ。彼女の学校にまで乗り込んで、狂おしい猛烈アタックを繰り返す。ところが当のジェシカが恋しているのは、なんとロビーの父親・キャルだった! 彼を家族から追い出したエミリーに怒り心頭の彼女は、ますますキャルに想いを募らせる。そんなジェシカの最近の行動を不審に思った父親のバーニー(ジョン・キャロル・リンチ)、離婚以来遊び歩いているという友人のキャルが娘をかどわかしていると思いこんで...。
司法試験間近の法科学生アンナ(エマ・ストーン)は弁護士リチャードからのプロポーズを期待している。でも真面目が取り柄の彼に、正直なところいまいちピンとこないでいるのだ。そんなときナンパ師ジェイコブが彼女をハント、自分のグラスハウスにお持ち帰りし、自慢の腹筋を見せつけてベッドインするのだが...。
加えて、キャルがはじめてナンパに成功した相手ケイト(マリサ・トメイ)もこれに絡まり、恋愛模様は狂騒的に繰り広げられていくのだけれど、とにかくアンサンブル・キャストの見事さにまず感心させられる。これは、いわば主演格のスティーヴ・カレルも出ていた『リトル・ミス・サンシャイン』を連想させるところでもあるだろう。そもそも本作は、カレルが新しく設立した映画製作会社カルーセル・プロダクションズの第一回作品なのだ。
カレルやムーア、ゴスリングら、いずれ劣らぬ演技派陣の実力は言わずもがな。日本ではまだ馴染みの薄いエマ・ストーンも、傑作『Easy A』('10、『小悪魔はなぜモテる?!』としてようやく年明けにDVD発売決定。ホーソンの「緋文字」を現代の高校に移し替えたこの映画、本作にも目配せアリ?)、そして目下賞レースの本命馬となっている『ヘルプ 心がつなぐストーリー』で本国ではすでに最注目の女優だ。
しかしキャスティング面における本作最大の功績は、ほとんど無名の新人であるアナリー・ティプトンとジョナ・ボボの"発見"である。齢を重ねるにつれ誰もが薄れがちになる恋愛へのピュアな思いをもっともストレートに体現しているのがこのふたりであるし、そのユニークすぎるキャラクターは『リトル・ミス~』のアビゲイル・ブレスリンとポール・ダノ同様、売れっ子化確実といえるだろう。
『カーズ』『ボルト』『塔の上のラプンツェル』等、ピクサー/ディズニーの傑作をモノしてきたダン・フォーゲルバーグの脚本を監督したのは、『フィリップ、きみを愛してる!』のコンビ、グレン・フィカーラとジョン・レクア。愚かしくも誠実な"恋の奴隷"状態の登場人物たちに等しく愛を注いでいるのがひしひしと感じとれる演出ぶりなのであるが、キャメラワークも的確かつセンス抜群。相当にグラフィックであるうえ、台詞以前に画だけで笑えるという芸当を見せてくれるのだ。ことにキャレル+ムーア+トメイの保護者面談と、エマ・ストーン+ゴスリングの初めての夜のシークェンスは絶妙すぎて爆笑の末にため息が出る。2011年度最上級の作品!!
text:Milkman Saito
原題: Crazy, Stupid, Love.
監督: グレン・フィカーラ、ジョン・レクア
出演: スティーブ・カレル、ジュリアン・ムーア、ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ケビン・ベーコンほか
制作国: アメリカ
上映時間: 118分
配給: ワーナー・ブラザース映画
http://www.loveagain-movie.jp/
シネマート新宿、シネマート心斎橋 他 全国ロードショー中
© 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.