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実はこの映画、画期的なのである。「シェイクスピア原作」と銘打つ作品は数あれど、ここまで原題を無視した邦題は史上はじめてだ。ま、「コリオレイナス」という、かなぁり地味な演目だから致し方ないか。しかもBBCがかつて全作品をTV化した「シェークスピア劇場」みたいなのはともかく、「コリオレイナス」自体が初映画化なのである! なんせ地味な演目だから......(こればっか)。
しかし観れば驚きだ。こんなにアクチュアルな物語だったなんて!! 初監督作としてコレを選んだ監督&主演のレイフ・ファインズ、なかなか目の付け処がナイスである。
食糧不足で暴動寸前のローマを鎮圧する誇り高き将軍、コリオレイナス。むろん民衆からは目の敵にされるが、仇敵オーフィディアス(ジェラルド・バトラー)率いるヴォルサイ軍との市街戦で勝利を収め人気回復、ローマの執政官となる。
だが、これをこころよく思わない護民官(≒議員。ジェイムズ・ネスビットが実にイヤらしい)は、"ナチュラル・ボーン・軍人"なコリオレイナスの揚げ足を取り、さらに、低きに流れる民衆の支持も取り戻して、"英雄"をローマから追放してしまう。名誉を剥奪され、復讐心に燃えるコリオレイナスは、仇敵オーフィディアスの軍に寝返り、ローマ攻めを指揮するが...。
いまや演劇やオペラでは当たり前、テキストはそのままに、見た目は現代的にアレンジした演出手法そのものに斬新さはないが、なんせこんな内容だからかなり凶暴に効力を発揮する。しかも作品のトーンは、まるでポール・グリーングラス映画のようなセミドキュメンタリ・タッチ。撮影もグリーングラス作品の『ユナイテッド93』『グリーン・ゾーン』、あるいは同じ手法の映画『ハート・ロッカー』を手掛けたバリー・アクロイドだから確信的なのである。しかもジョン・ローガンの脚本(『ヒューゴの不思議な発明』もそうだがイイ仕事してるよなあ)は、原本の台詞を大量に間引いて映像に多くを語らせるよう仕向けているから、ほとんど抵抗なく「現代の政治劇」として観ることができる。
しかもこの物語でもっとも愚かしい者として糾弾されるのは、権力亡者の執政官でも、戦争馬鹿のコリオレイナスでも、極右猛母のコリオレイナスの母(ヴァネッサ・レッドグレイヴ怪演)でも、狡猾なオーフィディアスでも、ない。シェイクスピアのターゲットは、耳触りのいい弁舌に簡単になびきやすく信念なき民衆......まさしく「衆愚」というにふさわしい市民に定められているのだ。とりわけポピュリズムなどと揶揄される橋下市政の下にいる大阪市民である僕にとっては耳の痛いハナシであるが(笑)、いやいやこれは「正しい民主主義(そんなものがあるとすれば、だが)」を築くための反面教師的物語なのである!
text: Milkman Saito
原題: Coriolanus
監督: 石井岳龍
原作・脚本: 前田司郎
出演: 染谷将太、渋川清彦、村上淳、他
制作国: 日本
制作年: 2011
上映時間: 113分
配給: ファントム・フィルム
ユーロスペースほか全国順次公開中!
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